8 ページ8
・
「結構です。」
「なんで怒ってんの？」
早歩きでその場を去ろうとすると
煙草の火を消して処理し、缶ビールを片手に追いかけてきた。
「俺なんか悪いことした？」
運動なんてほとんどしてこなかった私の早歩きでは
成人男性から逃げきれるわけはなくて
肩を掴まれ動きを止められた。
「私あなたみたいな人本当に嫌いなの！」
振り向いて住宅街に響き渡るほどの声で返せば
男性は目を大きく見開いて口をあんぐり開けた。
言い過ぎかと思ったけど
ナンパ野郎にはこれぐらい言わないとわかってもらえないだろう。
「煙草もお酒も、
せっかく健康な体で生まれてきたくせに
わざわざお金払って害のあるものを摂取し続けるなんて
私にはさっぱり理解できない！」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後
手の甲を口に押し当て笑いだして
コロコロ変わる表情にイライラしながら睨んだ。
「ごめん、そんな怖い顔しないでよ。」
「とにかく、もういいでしょ。
さようなら。」
また歩き出そうとすると、今度は腕を掴まれて
溜息をついて振り返るとまだ笑っていた。
「いろいろ誤解してる。」
「別にもう会わないからいいじゃん。」
「よくない、俺はまた会いたいもん。」
恥ずかしげもなくそんなことを言うから
素直に受け取って顔が赤くなる自分が馬鹿らしくなる。
掴まれた腕が熱くて、もっと顔が赤くなりそうで
マフラーに顔をうずくめて隠した。
「何それかあいいね。」
舌足らずな言い方にさらに顔を隠す。
チラッと見上げて、彼の顔を見ると
三日月に照らされたその姿があまりにも儚くて
触れたら消えてしまいそうなほどだった。
「誤解、解かせてくれない？」
私に視線を合わせるように少し屈んで
首を小さく傾け覗き込んでくる彼に
私は頷くことしかできなくて
そんな私を見た彼は優しく微笑むと
握っていた腕を離し、右手を包み込んで
公園までの道のりを何も話すことなく進んだ。
私の歩幅に合わせて歩く彼の足音と私の足音が響いて
そのリズムは心地いいのに、心拍数は上がっていくばかりだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 787人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねこ - 思わず感動して大号泣してしまいました、こんな素敵な話に出会えてよかった。ありがとうございます。 (10月26日 18時) (
レス) @page35 id: 0201ad6d5f (このIDを非表示/違反報告)
ゆな(プロフ) - 拝読しました。途中から“もしかしたら。。。”という思いがよぎり読み進めており、最後の方は涙が止まりませんでした。いろんなことを考えさせられました。とても素敵な作品です。 (2023年1月18日 16時) (レス) @page35 id: 362aab2dda (このIDを非表示/違反報告)
マシ(プロフ) - 大号泣しました。最高の作品でした。 (2021年7月3日 1時) (レス) id: 4e17f70d50 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぐたろう(プロフ) - 未さん» 読んでいただいてありがとうございました！そう言っていただけてすごく嬉しいです！ (2021年4月2日 20時) (レス) id: 182e74d2ca (このIDを非表示/違反報告)
未(プロフ) - 今更ながら作品読ませていただきました（ ; ; ）生きるという言葉の意味を綺麗な言葉ながらに深く込められていた心に刺さる作品でした！これからも愛読させていただきます！ (2021年3月15日 11時) (レス) id: dd8bdcffd2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぱぐたろう
| 作成日時：2021年1月27日 20時
