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「…Aさん？」
気づけば辺りはだんだんと明るくなっていて
月は朝の光に追いやられるように沈んでいった。
Aさんは疲れてしまったのか
小さな寝息を立てて夢の中へ行ってしまった。
「記憶を消す、か。」
そんなことできないのはわかっているけど
もし辛い記憶が消せるのなら
前までの自分であれば迷わず消していたと思う。
覚えておきたいと思うほど、
大切な記憶なんてものはなかったから。
「気づきたくなかったな…。」
そう呟く声はAさんに届くはずもなくて
起こさないように扉を閉めて
自分の部屋に戻って眠りについた。
「ごめん、寝ちゃって。」
「大丈夫ですよ。」
時間になって駅に降り立つと
リュックを背負って駆け寄ってくるAさん。
俺は後ろに回り込んでリュックを開けると
紫色のマフラーを取り出した。
「ちゃんと巻いていかないと。」
「え、あ、蓮くん？」
「旦那さん、また拗ねちゃいますよ。」
戸惑うAさんをよそに正面へ戻り
マフラーを首に巻いてあげるとすごく似合っていて
彼女の可愛さをより引き立たせていた。
「やっぱり旦那さんにはかなわないや。」
「へ？」
「なんでもない。」
込上げてくる思いを飲み込んで笑顔を見せれば
Aさんは小さく首を傾げて見上げてくる。
抱きしめたい、そんな気持ちが心を占領して
彼女を優しく包み込んだ。
「あの、蓮くん。」
「最後なんで見逃してください。」
三秒だけ、体感的にはもっと長く感じた。
ゆっくり離すと顔を赤らめたAさんが顔を覗かせて
その愛らしい姿を目に焼き付けつつ、
額にデコピンをお見舞いした。
「痛いなぁ…。」
「そんな顔したら旦那さん怒りますよ。」
本当に最後、これでお別れ。
深く息を吸って心の整理をつけたら
Aさんの事をじっと見つめた。
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ねこ - 思わず感動して大号泣してしまいました、こんな素敵な話に出会えてよかった。ありがとうございます。 (10月26日 18時) (
レス) @page35 id: 0201ad6d5f (このIDを非表示/違反報告)
ゆな(プロフ) - 拝読しました。途中から“もしかしたら。。。”という思いがよぎり読み進めており、最後の方は涙が止まりませんでした。いろんなことを考えさせられました。とても素敵な作品です。 (2023年1月18日 16時) (レス) @page35 id: 362aab2dda (このIDを非表示/違反報告)
マシ(プロフ) - 大号泣しました。最高の作品でした。 (2021年7月3日 1時) (レス) id: 4e17f70d50 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぐたろう(プロフ) - 未さん» 読んでいただいてありがとうございました！そう言っていただけてすごく嬉しいです！ (2021年4月2日 20時) (レス) id: 182e74d2ca (このIDを非表示/違反報告)
未(プロフ) - 今更ながら作品読ませていただきました（ ; ; ）生きるという言葉の意味を綺麗な言葉ながらに深く込められていた心に刺さる作品でした！これからも愛読させていただきます！ (2021年3月15日 11時) (レス) id: dd8bdcffd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぱぐたろう
| 作成日時：2021年1月27日 20時
