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「肺癌だった。
 おまけに肝臓もめちゃくちゃ悪くてさ。」



個室の窓から見える満月を眺めて
懐かしむように語りだす彼の横顔は
初めて会った時と同じでとても儚く消えてしまいそうだ。



「癌って知った時すごく怖くなって
 亡くなるまで病院に行くことができなくて、
 最後に会った親父は、もう冷たくて動かなかった。」



いつも思っていた。
時折する悲しそうな表情や
今にも消えてしまいそうなその儚さはどこから来るのか
疑問に思っていたことが、次々と明らかになっていく。



「親父かなりの喫煙家でさ、
 俺から親父を奪った憎い存在なのに
 いつもワイシャツから匂う煙草の香りが忘れられなくて。」



「だからいつも煙草の匂いを…?」



「そうそう。
 酒も、親父がいつも美味しそうに飲むからさ
 俺もいつか親父みたいになりたいって…。」



彼の意味不明だった行為にはすべて理由があった。
私はそんなことも知らずに
失礼なことを言ってしまっていた。



「ごめんなさい、わたし…。」



「教えてないもん、仕方ないよ。」



今にも泣きだしそうな顔をしているけど
涙を流すことなく、こちらを振り返ると
私の両手を優しく包んで、目をまっすぐに見てきた。



「俺、すっげぇ後悔してんの、
 なんであの時、ちゃんと話したりしなかったんだって。
 もう会うことができないのに、今更。
 大学を休学したのも立ち直れなかったからなんだ。」



「深澤さん…。」



「初めてAちゃんを見た時、一目惚れして
 忘れられなくて、知れば知るほど好きになって
 癌って知った時はびっくりしたけど
 もう逃げたくないんだ。」




手から伝わる体温が熱くて
逃げることができないその視線から
深澤さんが本気で言っていることがわかった。



「だから、俺の勘違いでなければ
 Aちゃんも逃げないでほしい。」



そんなこと言われたら、
もう自分や深澤さんに嘘をつく必要なんてないわけで
目に涙を溜めながら首を大きく縦に振った。




「3年間諦めなくてよかった。」







深澤さんは私に優しく口づけて
想いが通じて初めてのキスが病室なんて
ムードがないなと思いながらも
諦めていた幸せを噛みしめながら二人微笑んだ。

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ねこ - 思わず感動して大号泣してしまいました、こんな素敵な話に出会えてよかった。ありがとうございます。 (10月26日 18時) (レス) @page35 id: 0201ad6d5f (このIDを非表示/違反報告)
ゆな(プロフ) - 拝読しました。途中から“もしかしたら。。。”という思いがよぎり読み進めており、最後の方は涙が止まりませんでした。いろんなことを考えさせられました。とても素敵な作品です。 (2023年1月18日 16時) (レス) @page35 id: 362aab2dda (このIDを非表示/違反報告)
マシ(プロフ) - 大号泣しました。最高の作品でした。 (2021年7月3日 1時) (レス) id: 4e17f70d50 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぐたろう(プロフ) - 未さん» 読んでいただいてありがとうございました!そう言っていただけてすごく嬉しいです! (2021年4月2日 20時) (レス) id: 182e74d2ca (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 今更ながら作品読ませていただきました( ; ; )生きるという言葉の意味を綺麗な言葉ながらに深く込められていた心に刺さる作品でした!これからも愛読させていただきます! (2021年3月15日 11時) (レス) id: dd8bdcffd2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぱぐたろう | 作成日時:2021年1月27日 20時

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