口は禍の門 前編

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「暑い…」




「ほらA、手止めるなよ。」




「翔太先輩の雑用やりに来たわけじゃないんですけど。」




「宿代ただなんだからそれぐらい働け。」





家の中は一部屋ずつクーラーがあるようで、
最低限の命の危機は回避できたと安心したのも束の間
荷物を置くや否や、翔太先輩に連れられてきたのは
母屋に負けないぐらい立派な離れだった。




「翔太これ何―！！」



「あっ、バカ丁寧に扱えよ！
　ここにある全部昔から受け継がれてるやつなんだから！」





片手で高そうなツボを掴み振り回す大介先輩に
翔太先輩の鉄拳が入り、情けない声が響き渡った。





離れを片付けるようご両親に言われたらしく
この建物にはクーラーはおろか扇風機すらなくて
入っただけで全身から汗が滲み出てくる
何故せっかくの休みにこんなことをしなきゃいけないんだ
怒りをぶつけるよう翔太先輩の背中を睨むと
タイミングよく振り返られてしまった。





「先輩にガン飛ばすなんていい度胸だな。」





「暑い、くっつくな！！」





翔太先輩は後ろに回り込んできたかと思えば
私の首に腕をかけ軽く技をきめてくる。
案の定熱気が充満しさらに暑くなった室内に
全員の溜息が飛び交った。





「暑いんだからやめろよ。」





「翔太先輩がやって来たんでしょうが！！」





だめだ、水分を取ってないからふらつく。
とにかく一旦、この建物から出よう
外の方が風が吹いていて涼しいはずだ。





翔太先輩の胸に拳を軽くぶつけた後
ふらつく足取りで出入り口まで向かったけれど
あと少しの所でバランスを崩して
沢山の荷物が積み上げられた方へ勢いよく倒れてしまった。




「あだっ、」





荷物が次々と上から降りかかってきて
何とか腕で頭を守ったけれど
最後に落ちてきた箱に気づかずクリーンヒットを食らった。





「Aちゃん頭打ってない！？」





すぐに駆けつけてくれたのは目黒先輩で
私はとっさに右手を隠した。
ジンジンと痛みが強くなってきているけれど
きっと今だけでたいしたことはないだろうし
心配させないよう言わないことにした。




「大丈夫です、
　ごめんなさい荷物崩しちゃった…」





「それは気にすんな。
　ガラスとかなくてよかった、
　とりあえずこの暑さじゃまた倒れるかもしんねえし出よう。」







流石の翔太先輩も心配してくれていて
私の腕を引っ張り立ち上がらせてくれると
外まで連れ出してくれた。

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