口は禍の門 前編

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無事に初日を迎えた夏季休暇、大介先輩は本気だったようで
その日の夜には予定を組み新幹線のチケットも用意してくれた。





当日は溶けるほどに暑く快晴
交通機関を乗り継ぎ、一日二本しか出ていないというバスで
人気のない山の奥へと進んでいく。




「酔ってない？」




「薬飲んできたから大丈夫です。」




「そっか、良かった。」





まだ目的地に着いていないのに
疲れ果ててお互いに頭を寄せ合い眠る先輩達とは逆に
顔色一つ変えることない目黒先輩は
私の隣でトートバックいっぱいに詰め込んできた駄菓子を食べている。




「…凄い量ですね。」




「旅行は体力勝負だから
　Aちゃんも食べな、いっぱいあるから。」




「じゃあ飴もらえますか？」





差し出されたサイダー味の飴を口の中に放り込み
山しかない外の景色に目を向ける。
バスの中は冷房が効いているのに
都会とは比にならないほどの蝉の大合唱で汗がにじむ。





「翔太先輩の実家、流石に冷房はありますよね。」




「そりゃあるでしょ。」




「なんかこういう所って
　縁側で扇風機回してるイメージ。」





「それは確かに。」





目黒先輩は楽しそうに笑うけれど
クーラーがないなんて死活問題だ。
今日の気温を確認しようとスマホを取り出すと
電波は一本しか立っていなくて
この一週間生きていける気がしない。



















「…大きい。」




「まあ田舎だからな。」




翔太先輩は寝ぼけた様子でそう言い残すと
颯爽と家の中へ入っていった。





田舎だからとは言うけれど
周りの家よりも三倍ぐらいの大きさだ
めったにお目にかかれないであろう目の前の豪邸に
疲れもあってか脱力して荷物を地面に落としてしまった。




「佐久間くんの実家もこれぐらいありませんでしたっけ？」




「いやこれには負けるよ〜。」





ヘラヘラ笑いながらそう答える大介先輩は
眠って体力が戻ったのかいつものテンションで中へ入っていく。
頭を掻きながら再びスマホをポケットから出すと
圏外という絶望的な二文字が表示されていた。





「まじか、」





「俺ポケットWi-Fi持って来てるから一緒に使おう。」




目黒先輩は私の頭を優しく撫でて
地面に落とした私の荷物を拾い上げると
持ったまま中へと入っていった。





「目黒先輩いなかったら多分一日で帰ってたな。」






先が思いやられる、
現代文明に囲まれて生きてきた私が
一週間耐えられるか不安だ。

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