口は禍の門 前編

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「雰囲気あればいいってもんじゃないんだよ？
　言い伝えとか伝説がないとさ！」




「沖縄行こうとしてた人がよく言えますね。」





静かだと思っていたら
来た時と変わらない熱量で翔太先輩に詰め寄る大介先輩。
暑い、暑苦しいけどそんなこと言ったら面倒な反応をするだろうし
せめてこれぐらいはと皮肉を呟き
風の通りをよくするため出入り口の扉を開けるため立ち上がった。




でも私が触れたタイミングでドアノブが動いて
その勢いに負け前方によろけてしまったけれど
転びそうになったところで誰かが支えてくれた。




「ごめん」




「大丈夫です、支えさせちゃってすいません。」





私を抱き留めてくれた相手は
30分遅れでやって来た目黒先輩で
慌てて体を離すと眩しいほどの爽やかな笑みを浮かべてくる。




「ここ暑くない？」




「大介先輩が来てから気温がバグりました。」




「俺！？」





ここにきての癒しトークも束の間
間に入ってきた大介先輩の熱量で汗がにじむほど暑くなる。
目黒先輩は私の言ったことに納得したのか
溜息をついて部屋の中に入っていき、空いている席に腰かけた。





「まあ、話を戻すと
　伊部古村には立ち入り禁止区域があるんだよ。」




「何の話っすか。」





脱線した話を戻してくれた翔太先輩に
今来たばかりの目黒先輩は首を傾げる。
軽くさっきまでの会話を説明して元居た席に座ると
相変わらずのにやけ顔で話は進められた。




「昔から口酸っぱく言い聞かせられたみたいで
　その区域に入ったら罰金払わされるんだと。」




「村の掟的なやつっすか？」





「そうそう、うちの親は全く信じてないみたいだけど
　その区域に足を踏み入れたら呪いが掛かって死ぬんだと。」




「ミステリーですね。」




目黒先輩は適当に返事を返しているように見えて
瞳を輝かせながら翔太先輩の話を聞いている。





目黒先輩も変わり者だからな、なんて横目に見ていると
この話に興味を示しているのは彼だけじゃないようで
勢いよくテーブルに両手をつく音に肩をびくつかせた。





「めっちゃいいじゃん行こうよ！」




「まあでも観光できるようなところは何もないぞ？」




「呪いの謎を解くための旅行なんだから
　その区域が観光地みたいなもんじゃん！」






翔太先輩の何気ない一言は
私の夏季休暇を何やら面倒なものにしそうで
憂鬱になりつつも、これも思い出だと重い腰を持ち上げた。

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