た こ や き 前編

・ ページ30

＿Fukazawa side＿





「なんでポッとでの男が名前呼びで
　八年切磋琢磨してきた同期の俺が苗字なんだよ！」




「ふっかうるさい。」





定時で仕事を終わらせて
颯爽と帰っていくAの背中を睨んで見送ると
続いて帰ろうとした佐久間の首根っこを引っ張って
繁忙期で膨れ上がった仕事量を半分押し付け
何とか二人残業で最後まで終わらせることができた。





「仕事押し付けられた上に
　中学生みたいな拗らせ恋愛話聞かなきゃいけないとか
　マジで何の罰ゲーム？」




「恋愛話じゃねえし、心配なだけ。」




「いやいや嫉妬丸出しじゃん！」




流石に俺にも良心はあって
仕事を手伝ってくれたお礼に居酒屋へ連れてきたのだけれど
全く遠慮することなく高いものばかり頼む佐久間は
俺の方を見ることなく核心的な言葉を突き刺してきた。



このよくわからない苛立ちは嫉妬なのか
そう言われてみれば腑に落ちている自分がいる。





「俺だって八年一緒に頑張ってきたけど
　苗字で呼び捨てだよ？」




「まあそうだけど」




「でも何とも思わないし
　同居相手を名前で呼んでるって今知ったけど
　へーそうなんだ、ぐらいにしか思わなかったよ。」




美味しそうに看板メニューを頬張りながら
興味がなさそうにそう吐き捨てた佐久間を軽く睨む。
なんて薄情な奴なんだ
この前は心配だの何だの言っていたくせに。




「前にも言ったけど、
　ふっかが心配してるのはそこじゃないでしょ。」





「だから何だよそれ」





「ふっかは、岩本さんとの距離が近づいていってることに
　内心焦ってんでしょ？
　このまま本当に恋仲になったらどうしよーって。」





佐久間の言葉がストンと胸に落ちて
心が一気に晴れ渡ったような感覚がする。
でも今まで同期として接してきたのに
急に恋心を抱くことなんてあるのか。





「まあ拗らせるのも仕方ないよね
　八年片思いしてポッとでの男にかっさらわれてくなんて。」





「え、俺八年もAの事好きなの…？」





「気づいてなかったの！？
　だってAが婚約発表した時
　この世の終わりみたいな顔してたじゃん。」





自分では全く気付かなかったけれど
そんなにわかりやすかったのか。




「俺…Aの事好きなの？」




「俺に聞かないでよ。」








30にもなってこんな恋愛感情を持つなんて。
自分の気持ちに置いてけぼりになりつつも
ようやく気付けたこの感情を無駄にはしたくなかった。

第五章　天かす→←・

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