た こ や き 前編

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「照さんねぇ…」




そう小さく呟くような声が聞こえて
冷や汗が背中を伝い背筋が凍る。
何で初対面の人にこんなに敵意を向けられなきゃいけないんだ
いくら何でもいい気はしない。





「そうそう、今日は新しい皮入荷したから呼んでん！
　新作も初めてお披露目するから見て欲しくて
　Aさんもよかったら見てってくださいね！」




「あ、ありがとうございます。」





並べられたハンドメイド作品は
同じ皮を使用しているとはいっても
照さんが作るものとはまた雰囲気が違う。




一つ一つに目を向けていると
照さんはいつの間にか店の奥で向井さんと話し込んでいて
目の前では藤堂がこちらを見下ろしていた。





「あの、どれも素敵ですね。」




「…。」





気まずい、非常に気まずい。
照さんはどうして私を一人にするんだ
置いてかないでよ、そばにいてよ
なんて言葉が喉元まで出かかっている。




「あ、可愛い！」





気まずさがピークに達して
再び視線を作品たちに戻すと
一際目を引くキーケースに目が留まった。



思わず心の声が漏れて口を手でふさぐと
恐る恐る視線を上に挙げていった。




「…そりゃどうも。」





もう心が折れそうだ。
















「Aさんお待たせ。」





目頭に溜まっている涙をどうしたものかと
頭の中で必死に考えていると
ようやく照さんがこちらに戻ってきた。



その後ろでは向井さんが笑みを浮かべていて
藤堂さんは照さんに負けないぐらいの無表情
相反する二人の表情にぎこちない笑みを浮かべた。




「じゃあ注文してくれたやつはいつも通り送るから！」




「あ、そうだ
　いつも送ってくれてる家、解約したから
　新しい住所教えるわ。」





「引っ越したん？」




「Aさんの家でお世話になってる。」






何で今それを言うんだ。
向井さんはもちろん、藤堂さんも目を丸くしている
今にも吐きそうなぐらいこの場から逃げ出したい
頭を使い過ぎて目が回りうそうだ。





「じゃあ後でラインするから、
　Aさん行こうか。」




「ああ…はい…。」







照さんはこう見えても鈍感なんだろうか
でもこの場から離れられるのはありがたい。
深々と頭を下げて、二人お店を離れると
少し離れたところにある休憩スペースのベンチに腰かけた。

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