た こ や き 前編

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「来てくれてありがとう！
　…え、誰この綺麗な人！」




声の主は嬉しそうに照さんに話しかける。
しばらくしてこちらに気づいたかと思えば
目をまん丸にして驚いた表情を見せた。



どう反応すればいいんだ
この人たちに婚約者云々の事情は関係ないし
かといって正直に関係性を話せば不振がるだろうし
こうなることは分かりきっていたのに全く考えていなかった。





「彼女は新田Aさんで、俺の作品を売る手伝いを…」




「ああ、わかった！
　もうその時点で分かった。」




照さんが上手いこと私を紹介してくれたかと思えば
声の主は目をキラリと輝かせて
店の奥にいた女性に声を掛けに行ってしまった。




「ごめん、うるさいやつで。」



「賑やかな人だね。」



「そう言えば聞こえはいいけどな。」




なんて言いつつもいつもより表情は明るく見える。
やっぱり私の事が苦手なんだろうか
だとしたら申し訳ないことを頼んでしまった。




「照、いらっしゃい。」




一人でグルグルと考えていると
店の奥にいた女性がこちらにやって来た。
呼び方的に照さんと親しい関係性なのだろうか
何だか彼女から向けられる視線が痛いような気がするけれど
私は気づかないふりをして目を泳がせた。




「元気そうだな。」




「最近全然顔見せないから心配してたんだけど
　やっと会えたかと思えば…。」





視線が痛い、というか睨まれている気がする。
照さんには優しい目をしていたのに
これは典型的な少女漫画の展開じゃないか。




「最近仕事が立て込んでて…ごめん。
　Aさん、こちら藤堂加奈子ちゃん
　こっちのうるさかったのが向井康二。」



「うるさいってなんや！」

「この二人は共同でブランド立ち上げてて
　俺はここで商品に使う皮を買い付けてるんだ。」




担当者としてまだまだだと思い知らされる。
買い付けている店も把握できてないなんて
唯一自信を持つことができている仕事で飛んだ失態だ。




照さんの商品ばかりに目を向けて
それを愛情込めて作る本人の事は知らないことだらけ
これを機会に仕事に対する自分の姿勢を見直さないと。





「はじめまして、新田Aです。
　照さんには仕事で大変お世話になってまして」




「照にいからはよお話聞いて、いだっ！！」






向井さんの言葉を遮るように、照さんは軽く頭を叩いた。
その間も藤堂さんは私に鋭い視線を向けてくる
今日は断りした方が良かったのかもしれない。

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