た こ や き 前編

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「お金やっぱりお返しします。」




無事に家具一式も揃えることができて
ソファーは後日配送になってしまったけれど
その他は岩本さんの車に何とか工夫して押し込んでもらった。




「俺も住まわせてもらうんだし
　Aさんには普段からお世話になってるから。」




「そんな、私なんて不甲斐ないばかりで。」




岩本さんは作ることへの才能に長けているのはもちろんだけれど
商売に関してもかなりセンスがあって
私は担当をしているとはいえ、彼がしたいと言った事を
実現できるように協力しているだけだった。




「不甲斐ないとか言わないで欲しい。
　俺は、Aさんがいるからこの仕事が続けられてるんです
　どんな事でも一度挑戦させてくれて
　上手くいかなければ一緒に軌道修正してくれて」




「それは当たり前の事ですし」




「その当たり前が嬉しいんです、ありがとうございます。」




直接こんなことを言われるのは初めてで
今まで仕事を一生懸命やって来た自分が報われた気がした。


















家に到着して家具を運んでもらった頃には日が暮れていて
結局岩本さんのお買い物を潰してしまった。
どうお詫びしたらいいのか
自分の計画性のなさに呆れて言葉が出ない。



「明日からよろしく。」




「こちらこそよろしくお願いします。」



「確かご両親と会うまでに二週間もないんだよね
　できるだけ違和感のないように距離を縮めていこう
　まずは、タメ口に慣れるところから。」




「…あっ！」



つい癖で敬語を連発していたことに気づいて
慌てて口を手で押さえると
恐る恐る岩本さんの顔を覗き込んだ。




「…じゃあまた明日。」



やっぱり表情が読めない
というかまた怒っている気がする。
駄目だ、決めつけはよくない
表情だけで決めつけて、気に病むのはこれでやめよう。



「あの、」




「どうかした？」




「も、もう日も暮れてるし
　帰るのも大変だろうから、その…」




今日から住んじゃうのはどうですか？
何て言えるわけがない。
断られたらプレパラートメンタルの私は立ち直れないし
グイグイ来るなと嫌がられたらどうしようと考えてしまう。




「ははっ、」




「え…？」




「もう暗いから
　急なんだけど今日から住んでもいい？」





また見ることができた岩本さんの笑顔。
顔をクシャっとさせて、目を細めて笑うその雰囲気は柔らかくて
心臓がえぐられるほどの破壊力だった。

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