仏は三度許すと言うが 前編

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「私ばっかり話聞いてもらってごめん…」




「大丈夫！
　色々事情があってさ
　結婚まで話を進めるのに難航してて
　破談になる可能性もあったから言えなかったんだ。」





「事情、か」




「でもようやく話が少しずつ進み始めたんだ。」





結ばれれば毎日が楽しくてキラキラした日常が待っている
世の中に溢れる恋愛の曲やドラマはそんなことを歌う。
でも実際は結ばれてからがスタートで
両思いだけれど気づいていない、もどかしい期間が
恋愛の中で一番楽しくて輝いているんじゃないだろうか。




「上手くいかないね。」





「そりゃあ結婚って当人だけの問題じゃないし
　そのうえ愛だけじゃ乗り越えられないこともあるし。」





薫の言葉に深く頷く。





結婚は若い時にするのが一番いい
何故なら年齢を重ねればいろんなことを考えてしまって
中々その一歩が踏み出せなくなるから。
だから周りが見えていない若い頃に
勢いで籍を入れてしまうのがいい。




そんな言葉を目にしたことがあるけれど
結局のちに揉めるなら、結婚する前に
色々熟考して結論を出した方がいいに決まってる。





「なんかスッキリした！」




「私も、Aと話せてよかった。」




急遽決まった飲みの席は
色々ため込んでいた私にとって大きな転機になった。
ようやく翔太と話す決心がついた
これからどうするかはそれからだ。




「泊っていけばいいのに…」




「明日予定がるからさ、
　また今度泊めてよ。」





「うん、また連絡する。」





まだ早い時間だけれどお開きにして
店の前で薫と別れた。
今日は有意義な休みになった気がする
その証拠に家へ向かう足取りは軽い。




「お客さん！」




「はい？」




少し歩いたところで後ろから声を掛けられて
振り返るとさっきまでいた居酒屋の制服を着た男性が
こちらに向かって何かを握りながら走ってきた。



「忘れ物です！」




「忘れ物？」





出るときに荷物の確認はしたし
何かを置いてきてしまったはずはないのだけれど。
店員から渡された折り畳み傘には見覚えがあって
いい感じに酔っていた頭がすっと通常時に戻った。




「薫のだ…」






今から走れば駅あたりで追いつくかもしれない
店員にお礼を言ってその場から駆け出すと
曇り空の中、薫に追いつきますようにと祈りながら足を進めた。

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