第八章 未来図 ページ23
＿Watanabe side＿
同棲の準備は着々と進み
ふっかの家からAちゃんの荷物を無事に運び終えた。
空っぽになった六畳の部屋を覗くと
出窓に置かれたウサギのぬいぐるみの隣に頬杖をついて
少し離れたところにある高層ビルを眺めていた。
「ふっか、」
「ん、荷物運び終わった？」
「一応、それ忘れてたみたいだけど。」
ふっかはウサギのぬいぐるみを両手で抱き上げると
それをじっと見つめて動きを止めた。
こいつの背中ってこんなに小さかったっけ
なんて思うほどに寂しげな後姿に、胸のあたりが苦しくなった。
「俺、ちゃんと兄貴やれてんのかな。」
ふっかはAちゃんの事になると弱気になる、
その不安はどこから来るのだろうか。
どちらかというと自信家なはずなのに
どうしてこうもマイナスに考えるのかが不思議だった。
「俺、高校上がってからずっと友達の家入り浸ってて
卒業したらすぐに家出たから
葬式で再会するまで、Aとは10年以上会ってなかった。」
「まあ…無理ねえわな。」
「Aの事、心配してたのは本当だけど
内心イラついてたところもあったんだよ。」
「イラついてた？」
ふっかの言うことは
今の過保護な姿からは想像できないものだった。
ぬいぐるみを抱く両手には力が入っていて
表所は今にも泣きだしそうだ。
「いくらでも逃げる方法はあった、
現に俺は逃げ出せた。
周りだっていつも味方でいてくれた。」
「…。」
「でもAの世界はババア中心に回ってて
そんな環境を自分で選んだくせに
いっつも困り顔でさ、悲劇のヒロインにでもなったつもりかって。」
「…。」
「俺も一応毒は受けてきたからね、
…昔の自分を見てるようで嫌悪感が凄かった。」
無理もないだろう、
他人である俺だって疑問に思うことは沢山あったし
何でなんて言葉が何度も頭の中を駆け巡った。
それを一番近くで見てきた
逃げ出して自分の世界を変えたふっかから見れば
イラついてしまうのも当然の感情だと思えた。
「でもよく考えれば、
俺が家に帰らなくなってからは二人分の毒を受けてたわけで
そこから洗脳に近い扱いを受けたんなら
逃げ出すなんてことも考えられなかったんだろうなって
大人になってようやく気付いたわけよ。」
「ふっか、」
「情けねえよな、そんなことにも気づけなかったなんて。」
ふっかの目から涙が溢れ出て
ウサギの大きな瞳に落ちて行った。
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きらり(プロフ) - はじめまして。最初から全部読まさせていただきました…主人公よりはまだいい家庭で育っているはずなのに自分を重ねてしまい、最後は少し泣いてしまいました…笑 自分語り失礼しました…素敵なお話ありがとうございました!完結、お疲れ様でしたm(_ _)m (2021年9月19日 18時) (
レス) id: 40fc5d5440 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぱぐたろう
| 作成日時：2021年8月25日 19時
