抱きしめる準備は出来ていた。

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「これ、鞄ね。」



「舘さんごめんなさい…。」



「いやいや、Aの事助けてくれてありがとう。」



病室を出ようとした時
真っ青な顔をした舘さんが息を切らして入ってきて
眠っているAちゃんを見るとその場に座り込んだ。


車椅子を取りに行くから様子を見ていて欲しいと声をかけると
それぐらいすると申し出てくれて
俺の鞄と一緒に持って来てくれた。



「色々迷惑かけてごめん、
　何かお詫びさせてほしい。」



「俺がしたくてしてることだから。」



「それでも何かさせてほしい、
　両親もそう言ってるし。」



Aちゃんの事を連絡した時
親御さんはショックのあまり倒れ込んでしまったらしい。
普段からああいうことを繰り返してきた娘が
病院に運ばれたと聞けば最悪な場合を考えるのも無理はなく
伝え方が悪かったと反省した。



「じゃあ車椅子の動かし方教えてよ！」



「車椅子…？」



「…舘さん、いやお兄さん
　俺はAちゃんが好きです。」



俺の真剣さが伝わったのか
舘さんは眉間に皺を寄せて俺を見つめる。



「…Aとは普通の恋愛は出来ないよ
　義足の事はもちろんだけど
　精神面だって…本人は認めていないけど
　俺ら家族は精神疾患を疑ってる。」



「…普通って何？」



「そりゃあ…健常者の
　メンタルが安定してる可愛い女の子はいくらでも、」



「舘さんそれ本気で言ってる…？」



今までに感じたことのない怒りが込上げてきた。
舘さんは驚いた様子で目を大きく開いていて
そんな姿につい手が出そうになり
拳を固く握りしめて何とか理性でとどめた。



「お互いが大切に思い合って
　そばにいて欲しい、生きていて欲しい
　笑っていればそれでいい…そう思う事が出来たら
　それが普通の恋愛じゃないの？」



「それは、綺麗ごとだよ。
　交際して結婚して…そんな綺麗ごとじゃ、」



「綺麗ごと言ってるのは舘さんの方でしょ？
　…俺分かったよ、死にたいって思う理由は沢山あって
　その積み重ねが爆発して行動に移してるんだと思う。
　その理由の一つは…家族なんじゃないの？」



「…っ、」



「家族から普通じゃないって思われて
　頭ごなしに全部否定して
　Aちゃんを刺激しないようにってみんな言うけど
　そんなの逃げてるだけじゃん！
　一番偏見の目で見てるのは…舘さんたちじゃないの…？」



このままじゃ舘さんを傷つけてしまう、
そう考えて病室を出ると
堪えていた涙が溢れ出てきた。

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