君にしか見えない。

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結局、Aは俺が幽霊だと意味の分からない解釈をし
一方的にマシンガントークを広げた後
またソファーに寝そべった。



「その、ありがとう。」



俺を守るためにとった行動なのかは
犬のしたことだからわからないけど
とりあえずお礼を言うと
さっきみたいに前足に顎を乗せて俺を見上げている。



「助けてくれた恩は
　これから返していくから…。
　俺とナベ郎は今日から親友だ、
　さっきの約束守ってくれよな？」



ナベ郎は溜息をつきながらも吠えることはなく
それをOKサインだととらえた俺は
早速ここで生活するために物置部屋へと足を進めた。




「何でもそろってんな…。」



部屋の中には使われてない布団一式だったり
かろうじて使えそうなラジオや運動器具があり
一人生活するぐらいなら十分のスペースもある。



「こんなもんでいいか。」




ソファーで眠るAを起こさないように
ある程度部屋を片付け布団を真ん中に敷くと
大の字に寝転がり大きく息を吸った。
生活できるとは言っても狭いこの部屋は
どこか懐かしい気持ちに浸らせてくる。



「ちょっとだけ…。」



自然と睡魔が誘ってきて瞼が重くなっていく。
そう言えばもう何日もまともに寝ていない、
自分がしでかしたことなのだけれど
追われている恐怖が眠ることを許してくれなかった。



「やっべ、」



次に目を覚ました時には
小窓の外は暗闇に包まれていて
ひびの入った腕時計に視線を移すと
長い針が2を指していて深夜だという事がわかった。




「さすがに風呂入ったらバレるかな…。」



とはいえもう何日もシャワーすら浴びていない体は気持ちが悪くて
腹を括り部屋の外に出ると、
どこに何があるのかの把握もかねて家の探索を開始した。




広すぎるこの家は風呂の場所を見つけるのにも一苦労だった。
幸い寝室と離れた場所にあって、
できるだけ水の音を出さないようにシャワーを浴びると
久々の爽快感に胸が躍った。



「一枚ぐらい混ぜたってバレないよな？」




使ったバスタオルを洗濯カゴに放り込むと
急いで物置部屋に戻って小窓を開けた。
外の心地よい風で体の熱を冷ますと
再び襲ってくる睡魔に身を任せ布団に寝転んだ。

今頃どうなっているんだろうか、
親はきっと怒り狂っているに違いない。
就職を控えた弟も俺を恨んでいるんだろうな。



「ざまみやがれ…。」




呟いた言葉は夜の空へと消えていって
虚しくなった気持ちをかき消すために再び眠りについた。

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