君にしか見えない。

12 ページ12

・


しばらく談笑している声を聞いていると
得体のしれないモヤモヤが頭の中を支配して
苛立ちを覚え布団に大の字で寝転んだ。



あの2人を、Aを…
仲のいい兄妹を見ていると
まるで馬鹿にされているような気分になって
やり場のないイライラがどんどん溜まっていく。



「…やっぱり一緒に住まへん？
　ナベ郎もおじいちゃんやし
　何かあった時にすぐ駆けつけられへんのは怖い。」



「康ちゃん最近それしか言わんね。」



「俺は本気やで、
　ただでさえ危なっかしいのに
　その…Aは目が見えてないわけやん？」



心配するのも無理はない、
赤の他人でそこそこ性格が悪いと自負している俺でさえ
心配になって常に駆けつけられるように待機しているぐらいなんだから。



「大丈夫やって、
　康ちゃんも言った通り最近怪我しなくなったし
　ナベちゃんだって幽霊さんだっておるよ？」



「だから、幽霊じゃなくて全部ナベ郎がやってくれてるんやって。
　ナベ郎はずっとAの事守ってくれてるよ？
　でももういい年やし、ゆっくりさせてあげたいやん。」



「…やだ。」



これだけ仲がいいんだから一緒に暮らせばいいのに
寝転んだまま話を盗み聞きしていると
Aのわがままな態度にまたイライラしてしまう。



「いいよな、末っ子は。」



自分でもびっくりするほどの低い声でそう呟くと
余計にイライラしてきて目を固く閉じた。



「康ちゃん、私の好きなようにしていいって言った。」



「せやけどな？
　みんな心配してるんよ、
　もちろん俺やって毎晩寝られへんぐらいに…。」



「大丈夫やもん！
　ほら今日は午後から仕事でしょ、
　早くいかないと遅刻するよ！」



兄貴のド正論を遮るように捲し立てると
2人分の足音と玄関の扉が閉まる音が聞こえて
また家の中に静けさが訪れた。



「わがまますぎんだろ。」




兄貴が心配してんだぜ？
仕事の合間縫って様子見に来て
自分の事を思って声をかけてくれる兄貴に
なんでそんな態度がとれんだよ。



「うぜぇ。」



やっぱり俺はAが嫌いだ。
頭がモヤモヤするのも、謎にイライラするのも
こいつがポンコツでわがままで末っ子感満載だからだろう。



「…心配なんかしてへんくせに。」





そんな声が扉の向こうから聞こえて
心臓が止まりそうなほどの衝撃が走った。

声の主は間違いなくAだけど
今までに聞いたことがないくらい
儚くて今にも泣きだしそうな声だったから。

13→←11

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す