神に誓わなくったって 後編

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「トメさん大丈夫やろか…。
　精神的な支えやって治療に必要やのに。」



「あのハゲ数値しか見てねえんだよ。」



いつも以上に口の悪いめめの表情は
とても悔しそうで、きっと俺も同じ顔をしてる。
トメさんの病室に向かう足取りは重くなって
廊下の真ん中で立ち止まってしまった。



トメさんの事はもちろん心配やけど
俺にはもう一つの不安がのしかかっていた。




「…もしAさんが倒れたら
　俺達もこうなる可能性があるってことやんな。」



「それは…。」



もしAさんが事故か何かで病院に搬送されたら
場合によっては、法的に他人の俺は立ち会うことができひん。
そんな可能性を考えてしまって、不安がどっと押し寄せる。


めめが背中を擦ってくれるけど
その不安は段々と恐怖に変わっていった。









「康二くん？」



「…え！あ、なに！？」



「具合悪い？」



家に帰っても考え込んでしまって
ご飯を食べる手が完全に止まってしまった俺を
心配そうにAさんが覗き込んでいた。


我に返って適当に誤魔化しご飯を口に運ぶけど
旦那さんと会えないことを伝えた時のトメさんの表情が
頭から離れなくて、美味しいはずやのに味がしない。



「Aさん…。」



あの時は、夫婦になれるんやって
何も考えんと喜んでいた。
でも今日初めて、その判断は正しかったのかと
悩んでいる自分が顔を出し始めた。



「ん？どうしたの？」



「…やっぱなんもない！
　お米お代わりしてもいい？」





籍を入れませんか？
俺の苗字を名乗ってくれませんか？




俺と神に誓いを立てるのは嫌ですか？





そう言いかけたけど、ご飯と一緒に飲み込んだ。
断られたらメンタルを保てる自信がなくて
気まずくなってAさんと一緒に居られなくなるのが嫌で
あと一歩の勇気が出なかった。



「そっか。」



Aさんは凄く寂しそうな顔をしている。
もうこんな表情させたくなかったのに
不甲斐ない自分が嫌で仕方ない。



「はいおかわり。」



「ありがとう…って多ない？！
　山やん！！」



「康二くんなら食べられるよ！」



Aさんはそれ以上聞いてこようとはしなくて
いつも通りの雰囲気に戻してくれた。



その優しさに、今日だけは甘えさせて。








そう心の中で叫ぶと
不安な気持ちをかき消すようにおかずを頬張った。

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