第一章 思考ダダ漏れ男 ページ1
＿Sakuma side＿
「阿部ちゃん見て！咲いてる！」
「前見ないと車来たら危ないよ。」
順調に少しずつ咲き始めている桜を見上げながら
慣れない道を阿部ちゃんと二人歩いていく。
3月は別れの季節なんていうけど
今日俺たち沢山の出会いに胸を弾ませていた。
「あ、佐久間ストップ。」
「ん？」
もうすぐ目的地に着くというところで
阿部ちゃんが俺を引き留めて二人立ち止まった。
「花びらついてる。」
阿部ちゃんは微笑みながら俺の頭に手を伸ばすと
一枚の桜の花びらを取って俺に渡してきた。
ナチュラルにこんなことができるなんて
高校からの付き合いだけど改めて思う。
「ほんっとたらしだよね〜。」
「おい、聞こえてんぞ。」
「え、なんで？！」
心の中で言ったつもりだったのに声に出ていたみたいで
阿部ちゃんはそんな俺に呆れて歩き出した。
慌てて駆け寄り隣を歩きはじめると
目の前に小さな建物が見えてきた。
「その思考ダダ漏れな性格
この職場では頑張って直した方がいいよ。
佐久間はいいやつだけど、さっき俺に言ったことが
嫌だって感じる人もいるんだから。」
「その通りです、はい…。」
昔から思ったことを無意識に言ってしまう癖があって
よく言えば裏表のない
悪く言えばデリカシーのない性格をしている。
「ほら、話振った俺が悪いけど
もう職場着いたし暗い顔すんなよ。」
「ついちゃったかぁ、
アースラみたいなお局いたらどうしよう！」
「…もし本当にそんな風貌の社員がいても
絶対本人には言うなよ。」
建物の前に立つと一気に緊張が押し寄せてきた。
いくらヘッドハンティング的なもので来たとはいえ
この時期に何故なんて思われるんじゃないかと考えると
背中に冷や汗が伝った。
「その変にネガティブなところも
ゆっくり直していこう。」
「…うっす。」
阿部ちゃんは緊張して固まっている俺を見て
笑いながら背中を撫でてくれた。
今度こそは上手くやって行こう。
固く拳を握り締めて気持ちを落ち着かせると
大きな扉を二人で押して中へと足を踏み入れた。
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作者名：ぱぐたろう
| 作成日時：2021年3月7日 18時
