二度目の人生はあの子が愛した世界で“肆”【文豪ストレイドッグス】

佰参拾壱 ページ3

最後の兵士が撃つ短機関銃の銃弾を私は横に跳ねて避けた。
私を水平に追ってくる射線を壁を蹴って三角跳躍で更に回避。
殆ど敵の真上まで跳んでから残った弾丸の内を一発を打ち込む。



渡り廊下の終点に着地した。
最初の銃火から、ほんの一瞬の出来事だった。
少し間を置いて後方で兵士が倒れる音がした。
その音だけで仕留め損ないはいない事を確認し、私は再び歩き出した。




渡り廊下の先は中庭に面した広い歓談室(ホワイエ)だった。
部屋には中世風の装飾が施された大きな暖炉があり、赤い天鵞絨(ビロード)のついた肘掛け椅子があり、連隊旗が納められた金色の額縁があった。



嘗てこの洋館は或る外国人貴族の居住する屋敷だったそうだ。
事前に調べた処ではこの広大な屋敷の持ち主は戦火の拡大と共に資産を没収され母国に帰った。
その後この屋敷は所有権が浮いたまま、決して戻らぬ主人を辛抱強く待っているらしい。



私は足を止めた。
前方の扉の奥に遠隔爆破式の指向性地雷が仕掛けられているのが判った。


このまま進めば爆発に巻き込まれる。
壁越しに撃って破壊するしかない。
私は銃を向けた。
銃を向けた瞬間、私は失敗を悟った。



私のすぐ後方にも指向性地雷が仕掛けられていたのだ。
この場所をどこからか監視している人間が、私が前方の地雷に気付いた瞬間に後方の地雷も遠隔爆破する様に事前に取り決めていたのだろう。



私の異能力は未来を予見する。
だが私が自分の行動を変えた結果起こる事に(・・・・・・・・・・・・・・・・)ついては(・・・・)、行動を変えた瞬間から初めて予見が(・・・・・・・・・・・・・・・・)可能になる(・・・・・)。


そのため、“私が前方の地雷に銃を向ける”事をトリガーとして一秒後に起動する罠があった場合、私はそれを起動の一秒前にしか予見できない。



今回が正にそれだった。



私は思いきり前方に跳躍した。
その直後、後方の高性能炸薬が起動した。
散弾鉄球と爆炎が背面の外套を引き千切った。
爆風に押される様に私は床を転がり、すぐに頭を庇って床に伏せた。



連動して前方の指向性地雷が扉を爆砕した。
横向きの衝撃が私の躰に叩きつけられた。


異能を逆手に取った奇襲。
それも前後からの指向性地雷の挟撃。
この敵は“未来予見”の異能の特性と弱点を知り尽くしている。




真逆此処まで全てが前世と一緒とは……私はまた、相当厄介な者達を相手にしているらしい。

佰参拾弐→←佰参拾

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す