10人目の居場所は、ここに。ー４ー (ページ8)

今日:8 hit、昨日:15 hit、合計:95,309 hit

プライドは、ここに。　ページ8

Raul side

・

葉歌Aくん。

確かに僕は彼に憧れているけれど、彼のことを何一つ知らないと思う。

過去の病気のこともはぐらかされてばかりだ。

Aくんが調子悪そうな時に周りを囲むのはいつだって6人のお兄ちゃんたちだ。

家族構成もよく分からない。

唯一の家族だったお祖父さんとお祖母さんすらもう亡くなっていると聞いたのはつい最近のことだ。

あまりにも "過去" の人だったように話さないから、思わず聞いてしまった。

「Aくんのお祖父さんに僕も会ってみたい」

『ごめんね。今度時間がある時に、お墓参り、一緒に来てくれると嬉しいな』

そんな会話をした時、絶句してしまった。

自分の無知さが恥ずかしいほど情けなかった。

自分に主演映画の話があった時、真っ先にメンバーみんなに話した。

それぞれが喜んでくれて、おめでとうとか頑張れよって言ってくれた。

ただAくんだけはちょっと違って複雑な表情をしていた。

"何かあったら相談してね" その一言にほんの少し苛立ってしまうほど僕は子供だった。

自分じゃなくて僕にきたから釈然としないのか。

それとも僕を見下しているのか。

お風呂の中でそんなことを悶々と考えていたのを思い出す。

結局寝て翌日になればそんな気持ちさえも忘れてしまっていたけれど。

うたくんのあの時の複雑な表情の理由が、今なら分かる気がする。

撮影が始まってから2週間、今までだって大変な時は結構あったけどそれとは比にならない。

初めて経験する現場で思った以上に疲弊していた。

もちろん映像作品に出演したことはあるけど、恋愛映画の主演で共演者の方はみんな有名な俳優さんばかり。

人見知りに緊張が重なって何もかもがうまくいかない気がしていた。

空回りが続いて、ふとした瞬間に泣きたくなった。

そんな時、Aくんは僕をご飯に誘った。

まるでそれは神様からの救いの手みたいだった。