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Abe side
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画面の向こうで、"彼" は確かに生きていた。
そして、"彼" は終わりの時を迎えた。
とめどなく流れる涙を拭いて彼に電話をしようとしたけれど、誰かがしていそうだからメールにした。
ただ、ありったけの感謝と愛を。
2時間のドラマに詰まった一生を観て疲れたのか、ソファでうつらうつらとしながら思い出す。
仕事を離れていたあの時、彼が薬の大量摂取をしたあの日のこと。
うたの弟の葵くんから連絡をもらって病院に駆け込んだのは俺が最初だった。
酷い有様、思い出すだけで吐き気がするほど怖かった。
誰も悪くないのに、うたを壊した誰かが憎くて照が来るまでずっと病院の壁を殴っていた。
正気じゃなかった。ただ、下手したらうたが死ぬかもしれないという事実が近くに見えて怖かっただけだ。
手も足もベッドに拘束されて、それでもガタガタと暴れて藻掻こうとしていた。
多分、お医者さんに可哀想だから外して下さいと何回も頼み込んだ気がする。
外したら何をするか分からないので無理です、と愛想のない返事が返って来た。
照が到着してから、お医者さんから色々と説明を受けた。
見つかったのが早かったから胃洗浄を行えた、とか活性炭投与をしたとか、現実離れした話ばかり。
ただ、そういうのって本人の同意が必要だろうに、あの状態のどこが意識のある人なのか分からず、泣くばかりだったと思う。
泣いた後の小さな頭痛がやってくる度にあの時を思い出す。
トラウマ、ってほどはならないけどもう二度とないことを願いたい。
今日、うたが生きているという事実に、ただ感謝している。
「もしもし?」
『あ、阿部くん。メールありがとうございました』
「いいえ。ありきたりで申し訳ないけど、ドラマ、感動したよ」
『いやぁもうね、そう言ってもらえるだけで全部報われた気持ちになる』
「大変そうだったよね」
『でもね、みんなにいろんなこと教えてもらいましたよ』
「そう?」
『足りないものだらけだけど、誰かに補ってもらえるんだなって思ったら結構楽だった』
「そういうもんだよね、人生って」
『うわー!阿部くんに言われると深い!』
「うた」
『ん?』
「長生きしてね」
『…少なくとも、この人生無駄にはしないよ』
あっけらかんと笑う彼は、きっと俺が言いたいことが分かったんだろう。
だからこそ、ちょっと湿った声で "あの時はゴメンね" と言って電話を切った。
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作者名:Radu | 作成日時:2021年8月9日 22時