10人目の居場所は、ここに。ー４ー (ページ31)

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Meguro side

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『それでも戦ってたんだ。自分が誰かを救えたら、誰かの苦痛を取り除けたら、自分と同じ目に遭う子供が1人でも減れば、そうやってずっと自分を犠牲にして生きてたんだ。
そんなこと、僕だったら出来ないよ。すぐにやめてしまうに決まってる。
でも彼は満身創痍でも誰かのために奔走して、ある日疲れてしまったんだ。
もうダメだって思って、屋上から、飛び降りようとする。
その時に偶然彼を見かけた女性、後の結婚相手だね、その人が彼を助けたんだ』

「人生を繋ぎ止める救いの手だったんだね」

『って思うじゃん？彼女はちょっと変わってて、死ぬのは勝手にすればいいけど見たくないからせめて自分がここを去るまで待って、っていきなり彼を殴り飛ばしたんだよ』

「……殴り飛ばす？」

『そう、思いっきり。右フックだよ！彼女の趣味はボクシングらしくてね、結構な強めのを』

「それ、Aくんがやられるの？」

『そうなんだよ！怖いよねぇ、次の日は顔が腫れるかもしれないって言われた』

「そこまで？」

『女優さんの趣味もボクシングなんだって、本気でやりますって言われたから翌日の僕はきっと使い物にならないね』

「お見舞いに行ってあげるよ」

『ダメ、絶対に恥ずかしい顔になる』

静かに時が流れていた。

もうお店には常連さんしか残っていなくて、周りを見回したAくんは胸ポケットから煙草を出すとゆっくりと息を吐いた。

吸う？と差し出されたけれどそれは断った。

『彼は、やがてその女性に惹かれて結婚するんだ。
差し出した結婚指輪のサイズを心配されるっていうムードの欠片も無い告白だったけど、彼もまた "君の子供は僕が取り上げるんだ！" だなんて言うからお互い様だね。
でも、幸せは長くは続かない。
暫く放置していた体調不良がやがて見て見ぬふりを出来なくなって、検査をしたら、余命が1年も無いと言われた。
ちょうどその頃なんだよ、彼女の、妊娠が分かったのも。
子供が生まれるまで生きられるか分からない、治療の効果があるかどうかは何とも言えない、そう言われても彼はただ生きるために出来ることを全てやろうとした。
分からないんだよね。
もうこの世界から離れてしまいたいって気持ちはスゴク分かる。
それでいてその思いが打ち砕かれてしまった時の絶望も知ってる。
けどさ、大切な人を残して死んでしまうっていう感覚が、どんなものなのか、分からないんだ』