10人目の居場所は、ここに。ー４ー (ページ30)

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Meguro side

『今度のドラマね、実在のお話なんだ。元になった小説がこれなんだけど、知ってる？』

「あー、表紙は見たことあるけど読んだことないかも」

『目黒らしいね。この小説、主人公の男の人が自分の人生を書き下ろしたものなんだけど、最後の方はその人の彼女さんが書いたんだって』

「へぇ、途中でやめちゃったの？」

『ううん、亡くなったんだって』

「…そっか、そういうお話なんだ」

『この人ね、自分では運の無い人間だって面白おかしく書いてるけど、そんなもんじゃなくて毎日生きるのに必死だったんだと思う。
小さい頃は両親からの虐待を受けてて、その後育児放棄をされる。
それで施設に入ったんだけど全然小学校に通ってなかったから勉強も出来ないからうまく馴染めずにずっと孤独だった。
そんな時に、唯一心を開いていた施設の人が病気になって施設から離れてしまって、なんとかしてその人を助けたいって思った彼は医者になることを決意した。
そんなお話なの、それで、その役を僕がやってるの』

「壮絶な人生だね」

『うん。僕なんかには考えられないほど辛い過去と経験があって、それでも何かに希望を見出そうともがいて生きてたんだよ。
それで猛勉強して医者になって、たまたま小児科の先生に気に入られてそっちの道に進んだんだって。
そこは結構面白いの。小説読んだ時も笑っちゃったし、ドラマの中でもその先生のキャラが濃くてアドリブに毎回笑わされそうになるんだけどね』

「へぇ！早く見たいな」

楽しみにしているのにほとんどネタバレされちゃうじゃん、という気持ちはないけれど、Aくんの喋るスピードは衰えず。それと同時にお酒の進むスピードも止まらない。

Aくんの馴染みのお店らしく、お店の人もこれ以上飲ませたら危険と思ったのか、磨き上げられたグラスには水が注がれた。

それに気付かず飲み続けるところから察するに、もう完全に酔っているのかもしれない。

『実話なんだよ。ねぇ、目黒、これって、人の人生なんだよ。
ようやく夢を見つけて、現実にしたというのに、結局過去のトラウマは一生彼を苦しめたんだよ。
子供と接する仕事ってさ、楽しいだけじゃなくて苦しんでる子供と出会うってことなんだよ。
昔の自分と重なるような子供を見つける度に自分の無力さに泣いていたんだよ』

そう言って遠くを見つめるAくんの目には力が無かった。

Aくんこそが "彼" であるかのような、そんな感覚だった。