10人目の居場所は、ここに。ー４ー (ページ24)

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Hauta side

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広くて黒い海に飲み込まれてしまいそうだ。

どこへ行っても苦しくて、永遠と籠の中で走っているみたいだ。

怖い、暗い、辛い、逃げたい。

でも、何処へ行ったって逃げられないことぐらい、ずっと昔から分かっている。

とあるテレビ会社の周年記念のドラマらしい。

1回限りだけど、宣伝期間から物凄く長くて、かなりの製作費も投じられるとか。

そんなに凄いドラマなら一流の俳優さんがやるべき役だろうに、事務所とテレビ会社との取引が発生したんだろう。

要するに、使いやすい駒として、僕はまた先頭に立たされることとなった。

自分で言うのも酷く傲慢だけど、演技はこの事務所の中でまぁまぁ出来る方。

名前もそこそこ知られているし、賞という見える形で仕事を認めてもらったこともある。

それでいて、貰った仕事を断ることはない。

だからこそ、自分が欲しかった仕事じゃなくて事務所の人に勝手に決められた仕事も多くある。

"この仕事は断るのか？"と聞かれてしまえば、Noとは言えない。

全てはこの世界から遠ざかっていた2年間が元凶だろう。

あの時のことを、今でも脅しのように使われる。

所詮、僕はこの事務所の捨て駒だ。

YTFFという夢の晴れ舞台が明日に迫っているというのに、僕の使い物にならないこの体はウザったいほど悲鳴を上げていた。

深夜2時、家に到着するやいなや重い体を引きずって1階のトイレに駆け込んだ。

汚いから洗面器かゴミ箱に、という思いもあるけれど洗面所まで辿り着く自信が無かった。

朝飲み込んだ野菜ジュースと、現場で食べたケータリングの一部と、さっき飲んだばかりの温かいお茶。

喉を通って口から溢れ出るのはほとんど液体ばかり。

体が何かを吐きだすことを望んでいるけれど、ただ喉の奥を痛めて胃液を流すだけ。

座っている力も無くなり、床に横になる。

床の冷たさが気持ち良いと思えるほど、もう何かが壊れていた。

「お兄ちゃん？」

『………来ないで、』

「大丈夫？水とか持って来たけど、ドア、開けていい？」

『……いい、要らない、汚い、』

「そんなの気にしないって！それより、水分取った方がいいよ？ねぇ、鍵かけたの？」

『いいって、』

「お兄ちゃん」

『要らないって言ってんだろ！！！頼むから放っておいてくれよ！！！！』

愚かなことをした、と自覚した頃には記憶が途絶えていた。