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Hauta side
船で揺れているような浮遊感で目を覚ました。
見慣れないホテルのシャンデリアが眩しくて、その眩しさで吐き気を催した。
「葉歌さん！！大丈夫ですか？突然倒れられたので、一応お医者様にも見て頂きました。特に脳には、」
『かえらせて、くださいっ、』
「日本に、ですか？ですが、まだ、お仕事も」
『そんなの、もう、どうだって、っ、はぁっ、』
「分かりました！分かりましたから、今は休んでてください！！！飛行機とか向こうへの連絡とか、色々手配しておきますから」
譫言のように、「帰る」の言葉しか僕は発せなかった。
きっと日本に帰ればいつものようにおじいちゃんとおばあちゃんが待っててくれるだろうし、葵と4人で食卓を囲むんだから。
「日常」は帰れば必ずあるんだから。
そうじゃなきゃ、そうでなきゃ。
帰りの飛行機はずっと雨だった。
映画祭に欠席した最悪な男、僕はそう思われているのかもしれない。
電源を入れた途端に大量の通知を告げるスマホがそれを表している。
僕を罵る声がたくさん届いているかもしれない。
世界が僕を笑い物にしているかもしれない。
別にいいよ。
おじいちゃんとおばあちゃんが死んだだなんて話、絶対嘘だから。
それが確かめられたらみんなに謝るから。
芸能界から干されてしまうなら、それでもいいから。
雨が降り続く中、空港で待機してもらっていた車に乗り込んだ。
久しぶりの東京の景色は雨粒で歪んで見える。
言葉を発することもなく、車は少し混雑した道をただ進んでいた。
見慣れた病院、僕がお世話になっている場所だった。
事故で怪我をしたのならきっと外科病棟だろうから、何階だろう。
「葉歌さん、そっちじゃないです」
エレベーターに乗ろうとしていた僕をマネージャーさんが強く引っ張る。
違いますよと言って首を振る理由が分からなかった。
「病棟ではなく、霊安室ですよ」
頭をガツンと殴られたかのような衝撃だった。
現実はすぐそこに迫っているというのに、僕はまだ悪あがきをして逃げようとしていただけ。
それももう間に合わない。
霊安室には長時間ご遺体を置いておけないからすぐに葬儀屋さんの手配をしなければいけないとか、撮影で知ったことばかりが頭の中によぎる。
「お顔、見られますか？」
暗に見ない方が良いと言っているその言葉に、僕は確かに頷いた。
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作者名：Radu | 作成日時：2021年6月7日 21時
