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Hauta side
『大丈夫、きっと帰って来るよ。荷物だってたくさんあるじゃん、だから』
「違うの。お母さん、私に愛想を尽かしたんだ。お父さんのこと大好きだったのに、逃げられて、追いかけたかったはずなのに、私がいたから」
そんなことは無い、と断固として言えない自分がいた。
実際自分だって、両親の邪魔になったから捨てられたんだ。
所詮親という存在はその程度の愛情しか持てないのかもしれない。
そしたら、彼女だって同じ運命なのかもしれない。
「お母さん、きっとお父さんを探しに行ったんだ。私は、邪魔だから、置いて行って、」
『探しに行こう。そしたら、また3人で暮らせるよ』
「A、」
『ん？もう夜遅いから、明日探しに行こう。ね？僕も協力するから』
「私さ、もう、死のうかな」
『…………え、』
情けない声は風に浚われて、どこか遠くにポトリと落ちたと思う。
彼女に殻を被せて、完璧を演じさせていたのは僕だったのかもしれない。
心の奥底に潜む恐怖とか、悲しみとか、寂しさを隠させていたのかもしれない。
そう思ったら、自分の存在が酷く惨めに感じた。
瓶から溢れ出る大量の白い固体
両手一杯に取り出しても彼女は満足せずに2つ目の瓶を開ける。
風邪薬、咳止め、頭痛薬
そんな効用はもう目に入っていないようだ。
『待って』
「待てない」
『僕を、呼んだのは、どういう理由。止めて欲しかったんじゃないの？ねぇ、やめようよ』
「Aってさ、風が吹いたら倒れてしまいそうだよね。儚くて、透明で、怖い」
『………いいよ、付き合う』
何を考えていたのか、僕は信じられないことを口走った。
彼女を止めるでもなく再考を促すでもなく、あろうことか共に死ぬ、と。
その方がいい気がしたんだ。
母親に捨てられた彼女が死ぬのならば、両親に捨てられた僕がのうのうと生きている資格がない、と。
「……ゴメンね、」
『今更だよ』
「夢が、醒めない」
僕らは今までで一番ハイになった。
一つの線を越えて、体を重ね合った。
目の前に広がる幾何学模様に手を伸ばしたって触れられなかったけど、彼女の涙には触れられた。
大量に、流し込んで、全て飲み干して。
どちらが先に気を失ったのかは覚えていない。
ただ、地獄のような有様だったと思う。
所詮、幻覚は幻覚のままだった。
多幸感だってやがては消えた。
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作者名：Radu | 作成日時：2021年6月7日 21時
