10人目の居場所は、ここに。ー3ー (ページ23)

今日:6 hit、昨日:41 hit、合計:130,926 hit

・ページ23

Hauta side

『あの、僕、夏梅さんのことが好きなんです。もし、よければ、』

「いいですよ」

『……え、？』

「いいですよ、って言うような立場じゃないけど……」

『ほんとに？』

「Aくん、こんなに謙虚で真面目な人だと思ってなかったし、結構抜けてる一面もあるし、近くで見てて本当に楽しかった。もっとお近づきになれるなら、そんなに幸せなことない！あと、ハッピーバースデー！今日だよね？プロフィールで見たんだ。良かったら、今日の帰りにご飯でもどう？」

誕生日だってことを忘れててよかった。

夏梅さんに祝ってもらえるのなら。

葉歌Aと葉山夏梅のビッグカップル誕生

そんな噂は瞬く間に学年中、学校中に広がった。

勿論葵にもおめでとうって言われたし、何故かおじいちゃんとおばあちゃんまで知っていた。

高校生の身分だから学校帰りに寄り道したり休日にちょっと遠くへ出かけるぐらいしか出来ることはなかったけど、それだけで十分幸せだった。

身をもって分かってる。

こういう幸せは長く続かないってこと。

思えば、彼女は些細な違和感を完璧という壁で隠していた。

付き合ってまだ数カ月だから仕方ない、そんな言葉で正当化しないでほしいだけ。

結局、変わったのは僕らの日常と呼び方ぐらいだった。

それ以外何も知らないままで。

真夜中近くになって、突然彼女からの電話があった。

スマホの奥で喋る彼女の声は沈んでいて、消えてしまいそうなほど吐息交じりだった。

些細な違和感。

話聞くから、今から行くから、それだけ告げて家を飛び出した。

おばあちゃんに何処に行くのかと止められたけど、何度か家に来ていた彼女の名前を出せば送り出してくれた。

僕の家には何度も来ていたけど、思い返せば彼女の家には1度しか行ったことがない。

しかも彼女が学校を休んだ時にプリントを届けに来ただけで、家の中には入ってないし。

記憶を頼りに彼女の家のインターホンを押せば、開いてるからとやはり沈んだ声が聞こえる。

「もう、全部、嫌になったんだ」

色のない目で彼女はそう言った。

風になびく部屋着が寒そうに僕を嘲笑う。

突然会いたくなったから来て欲しい、そんな悠長なことを考えていた僕を。

『……どういう、こと』

「お父さん、2年前に出て行って、ずっといなかったの。そしたら、今度は、お母さんまで、いなくなった」

抜け殻になった部屋で彼女は涙を流した。