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Raul side
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『………え、それはっ、そのっ、ダメだったって、ことですよね………。いえ、僕が、っ、は、ふぅ、悪いので、ご期待に、添えず……っ、はぁっ、はぁっ、ご迷惑、おかけして、申し訳ないです。はいっ、では、』
不安を呷るような呼吸音が廊下に響く。
Aくんのスマホがカランと落ちて、そのまま体まで壁を伝ってズルズルと落ちてしまった。
「Aくんっ！！！」
『………らう、る、くんっ、ごめんっ、ダメ、な、とこ、見せて、っは……ひゅっ、はぁっ、はぁっ、』
「どうしよ、なに、すればいいんだろ……、誰か呼んでこなきゃ、待っててください！！」
『…いい、だいじょーぶ、だからっ、』
情けないほど足が竦んだ。
目の前のAくんは僕に寄りかかるので精一杯で、何度も浅い呼吸を繰り返す。
吸うんじゃなくて吐かなきゃ苦しいよ、力入れないでゆっくり呼吸して、そんなことも言えずに背中を擦るだけ。
Aくんは震える手でポケットを弄ると小さなプラスチックケースを出した。
その中にはいくつもの薬が入っている。
震える手でそれを開けようとして、手から落としてしまった。
「僕、開けます！どれですか？」
『………しろ、っ、ごめん』
「これですね？口、開けて下さい」
水なしでも平気なんだろうか、そんなことを考える余裕もなく、無我夢中でAくんの口に白い錠剤を運んだ。
ゆっくりとした動作でそれを噛み砕き、嚥下した頃には少しだけ呼吸も落ち着いてきた。
『………ごめん、稽古、っ、はぁっ、ふ、始まっちゃう、から、』
「先に戻れません、でも、僕じゃなくて他の人の方が安心しますか？それだったら、呼んできます」
『………んーん、らう、る、くんの手、おっきくて………っ、安心、する、ね、』
「ずっと手握ってますから、ゆっくり呼吸して下さいね、そ、上手です」
10分ぐらい経っただろうか、しばらくしたらAくんの虚ろな目がようやく僕の方を向いた。
ほろんと生理的な涙が一粒落ちて、僕の手を濡らす。
背後から誰かの足音が聞こえて、続いて名前を呼ぶ声も聞こえた。
「ラウー？うたー？どこ行った？」
「ここです！！いますAくんと一緒に！！」
岩本「お、いた！探したよ？稽古もう始まるけど、って、どうしたうた？何かあった？」
慌てて近寄ってきて、Aくんの隣にしゃがみ込む岩本くんを見て、僕の出る幕は終わったんだろうな、って。
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作者名：Radu | 作成日時：2021年5月21日 22時
