10人目の居場所は、ここに。 (ページ13)

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Raul side

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Aくんのダンスが好きだ。

何を隠そう、ジャニーズに入りたいと思ったのはAくんの存在があったから。

それを本人に直接言ったら、ものすごく恥ずかしがられたけど。

2012年の主演映画、ダンスで世界を目指す高校生のお話で、Aくんの堂々とした踊りとしなやかで繊細な手の使い方に言葉通り惚れてしまった。

その映画で新人俳優賞を取り、2年後には続編が公開された。

そんな俳優さんが実はジャニーズジュニアだったということが明かされ、追いかけるようにこの世界へやって来た。

Aくんは今の僕を作りあげてくれた人、そんな彼と今同じ舞台に立てているだなんて夢のようだ。

こうやって間近で演技と踊りを見ることが出来て、その隣で自分を表現する機会が与えられている。

『ラウールくんのダンスって、誰よりも輝いてて、僕は好きです』

そう言ってくれたAくんの言葉に恥じないように、今日もがむしゃらに自分を彩る。

『白ってとってもいい色だと思う。何にも染まれるし、何とも中和できるし、それでいて一番目立つ色なんじゃないかなぁって。ラウールくんはそんな存在になる能力があると、僕は思ってます。って、上から目線でゴメンね！』

Aくんは一生追いかけ続ける背中だ。

通し稽古が終わり、みんながあまりのしんどさで床に体を横たえる中、Aくんがスマホだけを持って外へ行こうとしていた。

深澤くんが「外行くなら、飲み物持って行きなよ？」と声を掛けると、Aくんはスマホの画面を見せる。

そこには知らない名前だったけど、着信画面が映っていた。

電話に出るだけだから大丈夫、という意味なんだろう。

その電話の内容が気になって、いけないことだとは分かっていても「トイレに行ってきます」と声をかけて部屋を出てきてしまった。

人気の少ない、汗をかいた体ではちょっと寒いぐらいの廊下でAくんは電話で話していた。

猫背の背中に貼り付いた稽古着は、大量の汗を吸い取っている。

『あ、はい……。そう、なんですね、えっと、大丈夫です！なんとか、なると思いますので。いえ、それは、申し訳ないので、』

なんだ、ただの事務連絡だったのかな。

それなら盗み聞きなんか申し訳ないや、そう思って戻ろうとした時、異変を感じた。