10人目の居場所は、ここに。 (ページ12)

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Raul side

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阿部「うたくんー？聞いてますー？」

『ん？どうしました？』

佐久間「もう台本はおしまいー！こっち来てよ、ポテトでも食べない？」

『あーちょっと、後で、』

阿部「すごい文字数だね、専門用語ばっかり。医療ドラマだっけ？」

『うん、覚えること多くてね』

佐久間「ちょっと休憩しよ、煮詰まっちゃうよ。今日の撮影はもう終わりでしょ？」

『…いや、稽古のあと夜の撮影があるから』

阿部「でも、セリフ覚えはもう十分なんじゃない？」

『……んー、まだ』

佐久間「取り敢えずさ、ゼリー飲料とか片手に見るでもいいからさ、何か入れとこうよ？ね？」

パタン、と台本を閉じる音が聞こえて、僕も他の人もみんながAくんたちの方を見る。

お世辞にもいいとは言えない顔色で立ち上がったAくんは、台本を持ったまま無言で外へ出てしまった。

取り残された阿部くんと佐久間くんはバツが悪そうな顔をしている。

佐久間「ゴメン！あそこまで追い詰めるつもりはなかったんだけどさ！！」

深澤「ま、いずれ誰かが言ってただろうから、しょうがないよ。佐久間が悪い訳じゃない」

目黒「追いかけなくていいんですか？」

渡辺「うーん、1人の時間が好きだから、そのままにさせてあげたいって思うけどね」

阿部「大勢でいると色々考えちゃう性格なんだよね、ここにいたら休めないのかも」

そういうもんなのか。

分からなくなった時、路頭に迷った時、稽古でうまく出来なかった時、いつも僕の隣には誰かがいてくれた。

ずっと大丈夫だよって言ってくれて、涙だって拭ってくれた。

でもAくんは自ら1人になりたがるなら、吐きだしたい想いをいつ消化してるんだろう。

Aくんが外へ行ってしまった扉の方ばかりを見て、帰って来るのを待つだけのお昼だった。

結局Aくんが戻って来たのは、午後の稽古が始まる直前だった。