検索窓
今日:8 hit、昨日:2 hit、合計:22,298 hit

220.エピローグ ページ49

.




「綺麗ですね、桜」



吹雪よりも優しい桜の雨。

舞い降りてきた花びら一枚を手のひらに乗せ、
背後にいる人に向かって呟いてみる。



「この桜、千年前からあるそうですよ。
 すごいですよね、そんなに昔から……」



千年の間、春が来るたび
千回の満開を迎えてきた桜。

当たり前のようで奇跡的に在る姿。

なんとなくシンパシーを感じてしまうのは
きっとその在り方のせいだろう。



「──そうだ。
 私、たくさんやりたいことがあるんです。
 春のお花見は達成しちゃいましたけど……
 夏には花火、秋は菊のお味噌汁、冬は星。
 星空鑑賞はもちろん月のない夜に、って」



それは思い出の重ね塗りかもしれないけれど。

でも私たちにとっては、
とても意味のある事だと思う。


思うのに。



「……ねえ、五条さん。聞いてますか?」



なのに、一向に返事のないそのひとは。

私の背中にくっついて腰に手を回したまま
少しも会話してくれないのだ。



「んー……」

「んーじゃなくて。
 あと、そろそろ離れてください。
 もうみんな行っちゃいましたよ」



変化のない生返事。

振りほどこうにも私では太刀打ちできないから、
自然に解かれるのを待つしかない。


仕方なく自由な手のひらを返して、
花びらを重力に任せる。

──と。



「それならさ、A」



不意に。

腰にまわされた五条さんの腕の力が少し強くなる。





「もう、どこにも行っちゃダメだよ」





どこか懇願するような響き。

やっと言葉らしい言葉をした声は、
私を微笑ませるのに十分すぎる条件だった。



『なら、きちんと繋ぎ止めておいてくださいね。
 どこかに飛んでかないように』

「いいの?」

『いいですけど。その代わり、
 私も少しだけ先生の自由をもらいますから』

「少しじゃなくて全部もらってよ」

『嫌です。私に先生を呪わせる気ですか?』

「僕はぜんぜん大歓迎だよ?
 愛ほど歪んだ呪いは無いからね」

『あ、それ。先生の持論でしたっけ』



軽やかに笑う。

おどかされたような風が
満開の桜を揺らして通り過ぎていく。



言われなくたって。

他でもない五条さんが許してくれない限りは
どこにも行けないだろう。

わざわざ離れる理由もないし。



『どこにも行きませんよ』



春の訪れに目を閉じて、
呟きに近い声でそう言ってみる。


────今はただ、このひとのそばに。








[ プロポーズされたので呪術師になります・完 ]


.

あとがき ※2023.6.13 追追記→←219.夜明け



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (70 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
368人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 五条悟 , 恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Sn | 作成日時:2022年2月25日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。