198．雫代運命譚 − 呪禍 ページ27
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『呪術はきっと、今の彼には効かない』
振り向いたひとは見るからに、
理解できない、と言いたげな目をしていた。
「呪術が効かない？」
『呪いを呪いで祓う、というのが通じないんです』
「弾き返すって？」
『いいえ、むしろ逆です。
だって先生、彼が永遠に膨らみ続けるには
外からのエネルギーも必要だと思いませんか』
「……呪力を取り込むのか」
強大な──でもどこか不思議な引力は、
彼が力を吸い上げようとする為に感じ取れるもの。
〈聖域〉内の、恐らく全ての生き物に
この引力は及んでいるはずだ。
いま〈聖域〉の結界が壊れてしまれば、
彼の影響は湖の外へ。
日本全国どころか、地球全土にまで広がる。
そうしたらもう止まらない。
呪いは際限なく嵩み、
広がった傍からも呪力を取り上げ、増え続ける。
永遠に、永遠に。──全てを呑み込むまで。
「なるほど……つまり。
普段通りの威力を出すのに必要な呪力量は、
向こうが取り込む量の二倍。
さすがに現実的じゃないね」
『マイナスの力をマイナスで押し切るなら、
確かにそうなります。反転術式でも同じことです。
同じ呪力である以上は──』
あれだけの大きさがある以上、
強引に押し切るのは間違いなく不可能だ。
呪力は人の力。
それを相殺できるのは、きっと。
『……そういうことなので。
ここは私に任せてもらえませんか』
人と対立するのは、自然。
あるいは地球という
『私の力は、呪力とは少し違うみたいなので。
きっと彼にもよく効く』
自然の神秘を掬い上げたエネルギー、霊力。
表面的には似ていても呪力とは別物だ。
この状況において、私以上の適任はいない。
まるで……誰かの意思がそう働いたかのように。
「なら一応、聞いておくけど」
幾つもの言葉を抑え込んだような沈黙の後、
先生はおもむろに尋ねた。
「
私を案じる声を追い越した先で少し、
立ち止まって振り返る。
『犠牲になんてなりませんよ』
思わず零れたような微笑みで、そう返す。
『それにこの作戦、
先生にもちょっと協力してもらいますから』
知らず知らずのうちに強ばっていた肩が
少し、ほぐれたのを感じながら。
▽
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作者名：Sn | 作成日時：2022年2月25日 23時
