［１］プロポーズされたので呪術師になります【五条悟】

28．大人と子ども ページ30

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波乱の夏祭りからしばらく経ち。



「A〜そろそろ口きいてよ〜」


進行方向には長い足。隣には壁。
生徒に壁ドンならぬ足ドンをかますこの教師。

こうなったのには、当然訳がある。



あの“冗談”に対して相応に腹を立てた私は
しばらく五条先生を無視することにした。


事務的な会話以外は交わさない。

絡まれそうになったら
仲間をフル活用して逃げる。


──と、そんな調子で一週間。
少しはおとなしくなるかと思いきや。



「ねえ、やっぱり怒ってる？」

『……分かってるなら放っておいてくれません？』

「だってもう一週間だよ？
　そろそろ許してくれてもいいじゃん」


このとおり。
打てど響かぬ私に痺れを切らして
強硬手段に出たらしい。わざわざ一人の時を狙って。

期待するだけ無駄だった。


『一週間なんかで収まらない、って考え方は
　できないんですか』

「でも、どっちにしろ
　話さなきゃわかんないでしょ」

『……』


珍しく正論。

どうしてこんな意固地になっているのか
正直自分でもわからない。


先生が何も言わないから？

嘘をついているから？

はぐらかされるから？

本当の姿が見えないから？




先生とは踏み込んだ話ができない。
思い返せばそんなことばかり。

好きだのなんだの言うくせに、
大事なところは全部ぼかしてくる。


『……五条先生なんて嫌いです』

「え…、え！？ なんで！？」

『ずるいからです。単純に』


ずるい。自分は何も言わないで。

でも。
そんなふうに見返りばかり求める自分のことも
同じくらい、嫌いだったりする。


『先生。……大人は、ずるいですね』

「まあねぇ。でも、みんなそうなるもんよ？」

『大人になれば、ですか』

「結局はね。成長して知恵も経験も増えてくると、
　自然とそうなるんじゃない？」

『……』


そう、だとしたら。私は子どもだ。

先生の嘘がわからない。
どこまでが本当で、どこからが偽りなのかも。


『……さっきのは嘘です。嫌いじゃありません』

「ほんと！？ じゃあ、好き？」

『調子に乗らないでください』


ちぇ〜と不貞腐れる五条先生。

その姿は子どものようでも、
実際は真っ当にずるい大人だ。


『私は、大人になります。できるだけ早く』

「え、僕はおすすめしないなぁ。
　あんまりいいものじゃないよ？」

『だからです』


それは唯一の期待と希望。


早く、大人になる。

そうすれば少しは
この人の考えも理解できるんじゃないか、と。



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