別れの季節に (ページ8)

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花束茅ヶ崎至ページ8

会社が倒産する事になった。
オリンピックで景気は回復傾向にあると言うのに、
そんなの嘘じゃないか。

小さな会社の受付嬢を勤める私は、今日もいつもの
席に着く。

「すいません、田中部長を。」

「かしこまりました。」

取引先の茅ヶ崎さん。
彼が受付に来ると嬉しかったな。
会議室へ入っていく彼の背中を見送る。

帰り際、彼がまた受付に寄っていく。
「あの、会社なくなってしまうんですか？」

「はい。3月いっぱいで。」

彼とは会社は違うものの、同じ時期に入社して
顔を見合わせると、世間話を楽しむほどの仲だった。

「じゃあ、もう会えないんだ。
寂しいな。」

「本当にそう思ってます…？」

「こうして話すのもあと少しですか。
春からはどちらに？」

敬語になったり、タメ口になったり私の心をかき乱す。

「実家に戻ります。
旅館を経営してるので、家業を継ぎます。」

「旅館ね。なんか、吉川さん落ち着いてるから
似合いそう。」

元々、東京に出てきたのも実家の旅館を継ぐという
条件のものだった。

「明日も来るから、じゃ。」

「お待ちしております。」

こうして、彼と会えるのも後僅かだ。
学生の頃、卒業間近は寂しかったなと懐かしい気分になる。