存在 有栖川誉 ページ31
この劇団には、私の詩を理解してくるものは
いない。
唯一、詩を褒めてくれたのは彼女だった。
「この表現、好きだなぁ。
有栖川くんは心が綺麗だから書けるんだね。」
父の主催するパーティに参加していた、若手の女性脚本家。
「有栖川くん、私のファンなんだって?
こんな大きなパーティに、駆け出しの私が呼ばれる
なんて、不思議に思っていたのだけど…
それは嬉しい事だわ。」
「先生の書いた脚本はすべて見ています!
この間のドラマが反響が大きかったのでは?」
爽やかな恋愛物ではなく、少しシリアスな作風の
脚本は多くの人を惹きつける。
「そうね。地元の友達からも連絡が。」
彼女が話を合わせてくれたのもあり、私達が仲良くなるのに時間がかからなかった。
お付き合い、というのも自然な流れであったと思う。
「詩の調子は?」
会うのは決まって私の部屋で、お互いの近況報告が主だ。
「聞いてくれるかね、先生!」
「じゃあ、私のも。」
2人並んで作業をしたり、作品に対して感想を言い合う。
「私は、誉のファン第1号よ。」
恋人らしい事は何もないけど、彼女に対しての気持ちは募っていくばかりだ。
「私ね、映画の脚本を書く事になったの。」
彼女が大きい仕事を貰った時は、嬉しくてコンビニのシャンパンで祝ったものだ。
彼女の書いた映画は、大ヒットし脚本家として瞬く間に名を挙げた。
「次も書かなきゃ…書かなきゃ。」
しかし、いい点ばかりではない。
1度いい物を仕上げた彼女に対し、世間は大きな期待を寄せる。
「少し休んだらどうかね。」
「ダメ、ダメ。早く仕上げないと。」
私は壊れかけていく彼女を見ながらも、何も出来ないでいた。
今や、手掛けた作品の全てが話題になる彼女と
売れない詩人の私では月とスッポンだ。
だから、そんな部分もその後の関係に影響していったのだと思う。
いつの間にか、連絡は減り会う事もなくなった。
周りはそれを自然消滅だと言う。
実に美しくない恋愛の終わりだ。
有名な映画監督の熱愛報道の相手に彼女の名を聞いた時、全てが終わってしまった事を悟った。
あれ以来、私はテレビを見る回数が減った。
みんなが面白いと言うドラマの脚本は彼女だから
私はもう目を向ける事が出来ない。
けれど詩を書く時、いつも思い浮かぶのは彼女の顔だ。
愛おしさだけでなく、妬みや嫉み。
黒い感情まで教えてくれた過去の恋人。
君は、今何を書いているんだろう。
気になってしまうのは未練か。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2019年3月10日 11時