クラスメイト 瑠璃川幸 ページ14
「いやー卒業式の練習、思ったより長引いたね。」
「泣いてるの隠さなくていいからやるよ。」
式の練習が始まり、いよいよ卒業は目の前まで迫っていた。
「だいぶ出来てきたなあ。
瑠璃川のおかげじゃん!
さっすが!」
小さな手で頭を撫でられる。
「…まだ完成してないし、調子乗らないでよ。」
「あれ、もしかして照れてる?」
「いいから!早く!」
綿を詰めて最終的な調整をすれば完成してしまう。
ぬいぐるみが出来たらこうして話す事もなくなる。
「瑠璃川いなかったら大変だったよー。」
「ソフトボール以外はダメダメ。」
「おっしゃる通り…」
ぬいぐるみ、このまま完成しなければいいのにと思う自分がいる。
「綿つめたよ!あとはー?」
「あーあとは」
この感情に名前は付けない。
俺と彼女は、クラスメイトにしか過ぎないから。
「出来た〜」
日が暮れかけた頃、ようやく完成した。
「良かったね。これで、来週卒業できる。」
「瑠璃川ありがとう!
あたし、瑠璃川が有名なデザイナーになったら
めっちゃ自慢する!」
調子いいんだから、本当。
人の気も知らないでさ。
卒業式当日。部活仲間や、ファンクラブらしき女子に囲まれる彼女を遠目で見ていた。
たった1カ月、放課後の時間を過ごしただけなのに
何を期待していたんだろう。
彼女とは、初めから住む世界が違った。
それだけの事。
玄関前で椋と待ち合わせていたのを思い出して
俺は教室を出る。
「瑠璃川ーー」
人混みを掻き分け、騒がしく追いかけてきたのは
紛れもなく彼女だった。
「注目されてて恥ずかしい。」
「ごめんってー。
どうしてもこれ、渡したくて。」
綺麗にラッピングされた袋。
中に入っていたのは、1カ月かけて作ったパンダのぬいぐるみだった。
「色々ありがとう。
瑠璃川、絶対凄い人になるよ。
楽しみにしてる!
…それじゃ!」
そう言うと、彼女は俺の方を一度も見ずに友人達の
輪に戻ってしまう。
袋の中をもう一度見ると、小さな紙切れがあった。
「ありがとう!
あたしの事忘れないで。」
アンタはそんな小さい紙切れで、俺の心をどうする
つもりだったの?
目の位置も、縫い方も雑なパンダのぬいぐるみは
捨てられず、寮の部屋の片隅に飾ってある。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2019年3月10日 11時