卒業 佐久間咲也 ページ1
例年より暖かく、雪が溶けるのも早い3月。
一回くらい、スケートやスキーを楽しめば良かったなあ、とボンヤリ思いながら、着慣れた制服に袖を通した。
今日は私の卒業式だ。
老朽化で取り壊しが決まったアパート、閉店するコンビニ、一軒家の前に止まる引越し屋のトラック。
いつもの通学路なのに、なんだか別れで溢れている。
「おはよう」
「おはよう。髪セットしたんだー珍しいね。」
「あ、ねえねえ。写真撮ろうよ。」
「私、自撮り棒持ってきたから使ってー」
数少ない友人と過ごす、残り数時間の高校生活。
卒業証書を渡されたら、私達は高校生じゃなくなる。
…斜め前の席に座る彼に会えるのも最後だ。
いつでも彼に話しかけられていいように、式前のホームルームが始まる前に席に着いた。
「Aさん!」
赤い髪をセットした彼は、なんだかいつもより大人に見えた。
「借りてた小説面白かったよ。
綴くんにも見せたら、次はこういうのを題材にするのもいいなって。ありがとう。」
「そう?この小説ね、私も好きなんだ。」
彼の所属する劇団の公演を観に行ってから、仲良くなった私達。
おすすめの映画や小説を彼に貸すよう仲になったのは、それがキッカケだ。
「じゃあ、また…」
また持ってくるね、と言いかけた口を閉じる。
今日で卒業なのに。こうして会うこともないのに。
「あ、式始まっちゃう。行こ!」
気がつくと、クラスメイト達は体育館へ移動を始めていた。
「遅刻だー」
私の腕を引きながら、体育館まで走る彼。
佐久間くんに会えなくなるのが、想像できなかった。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2019年3月10日 11時