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その日は酷く寒かった。
大嫌いな、満月の夜。明るい空は相変わらずどうしても好きになれない。
これから、私はどんな日々を送るのだろう。あと何回、この明るい夜が明けるのを待たなければならないのだろう。
抱えたギターケースを無意識に抱きしめる。
Aは不安だった。けれど、だからこそ、人に弱みを見せることが出来なかった。
それでも、音楽だけは泡沫のやすらぎを与えてくれる。だから、今日もAはいつものようにライブハウスの壁に背中を預けて瞳を閉じる。
(今日も、やってる…)
音楽に関して、プロにも劣らない知識と技術、審美眼を持つAが認める、好きになるアーティストは非常に少ない。
その数少ないひとつは、このライブハウスで頻繁にライブを行っていた。
硬質でまっすぐな、温度が低い冬と春の間のような声。
ゆったりと燃えるような、芯の通った優しい声。
「おい、こんなところでどうしたんだ？」
「体調が悪いのかな…大丈夫？」
聞き覚えのある声が聞こえて目を開くと20代前半頃だろうか、男性2人が自分の顔を覗き込んでいた。
すらりとした長身、Aも同年代の中ではかなり背が高い方だけれど、自分はやはり子供なのだと自覚させられる。
「どうしたの？」
柔らかい、穏やかな口調で尋ねる紺髪の青年は年の割に大人びたオーラを帯びている。その顔立ちは世間の中でも整っている方なのだとAは何となく感じ取った。
「見ない顔だな…こんな子、来てたか？」
もう1人の銀髪の男性は対照的に、冷たく鋭い口調で黒髪の男性に問いかける。こちらも同じく、女性が好みそうな端正なかんばせに泣きぼくろ。
口調こそ冷たいが敵意を向けられているわけではないのだとAはすぐに察することが出来た。なんだか、自分と近いものを感じたのだ。
「何をしてるの？」
「曲を聴いてるの」
「ここで？」
男性2人は顔を見合わせる。
試しに耳を澄ましてみてもドラムの音とベースの振動しか感じることが出来ない。
「…さっきまで、ここで演奏してた人たち？」
「そうだけど…」
「あの曲好き。今日の2曲目のEメジャーの曲」
ちょっと待ってね、とAは自身のギターを取り出してチューニングを始める。
チューナーを使わずにミラレソシミと音を合わせるAの音感に2人は感心する。C、Gとコードを鳴らして音があっているか確認するところを見て、随分と扱いなれているなと思った。
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ドーナツ(プロフ) - 高沢さん» ありがとうございます〜！こちらはかなり不定期更新となってしまうと思いますが、本編共々よろしくお願い致します！ (2020年5月30日 6時) (
レス) id: f19df2fce1 (このIDを非表示/違反報告)
高沢 - 番外編…！ありがとうございます！！楽しみにしています！！ (2020年5月29日 23時) (レス) id: a364a1dba9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ドーナツ | 作成日時：2020年5月28日 21時
