the sacrifice (ページ5)

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一章　Prince of Cinderella ページ5

両親を亡くした少女は継母と義姉たちに虐められる生活を送ることになる。
憧れの舞踏会に向かうことも許されなかったが、魔女の力を借りて十二時までという条件で舞踏会に参加する願いが叶い王子と逢うことに成功。

しかし十二時を迎え少女が逃げるように帰ると、今までの生活に逆戻り。
王子は少女が置いて帰ったガラスの靴を手がかりにもう一度少女と逢うために奔走するも、継母は少女が二度と外へ出られないよう屋根裏に拘束し、二人の願いは叶わないまま少女は灰を被り死んでしまった。

そんな哀れなプリンセスのために、王子様が身代わりになって差し上げましょう。

∴∵∴∵∴

扉の先に在ったのは、シャンデリア輝くお屋敷だった。
物陰に隠れてあまり向こうは見えないまま状況の変化を待っていると、鋭い声が耳に届いた。

「ちょっと、お前さん！」

広い廊下に響く声。少しハリを失ったその声は、怒り口調で言い放つ。
あれが継母に違いない。

「アンタちゃんと掃除してるんでしょうね？」

物陰からバレないように覗くと、その先にいたのは一人の青年だった。ボロい服を着て、今は雑巾を絞っているらしい。
継母の方に振り向いたその顔はひどく困惑していたようだったけれど、何よりその顔は。

「…あれっ、」

それを見た俺は目を見張った。
あのパッチリとした目とパリッと固められた前髪は間違いない。大吾くんだ。
――この世界にスプレーとかあるんかな。
どうでも良いことを考えていると、大吾くんは重々しくその口を開いた。

「は、はい、一応、床と窓は――」
「『一応』ですって！？」

そしてギッと大吾くんを睨みながら継母さんは怒鳴る。

「ちゃんとして頂戴！！道理でこんなに埃が溜まっている筈よ！！」
「ちょっと、アンタ！洗濯ははまだなの？」

間髪入れずに入ってきたのはお義姉さんらしき女の人で、ゴージャスそうなドレスを纏って登場した。

「え、……あ、すみません、まだで、」
「しんっじらんない！！」

絶叫するお義姉さんを見る大吾くんの目からは「鬱陶しい」と言わんばかりの憎心が見え隠れしている。演技力でもカバーしきれていないようだ。

「明日舞踏会なんだから、ドレスちゃんと洗濯しといてよね！」
「お掃除もお料理もよ！折角拾ってやったんだから、ちゃんとしなさい！！」

二人はプリプリと怒りながらそう言って、ヒールをカツカツ言わせて何処かへ行ってしまった。

こわっ。近寄らんとこ。

思わず息をつきながら立ち上がると、目の前には見慣れた顔があって。

「……みっちー？」

大吾くんは俺の顔を怪訝そうに覗きこんでいた。