9つのくちづけ【短編】 (ページ17)

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トリコにしてあげる - 桃ページ17

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「さくまー、メイクさん呼んでる」

「はあい」

今日はメンバーとふたりでの雑誌撮影の仕事で現場に来ていた。先に準備を終えた照に呼ばれて入れ違いでメイク室に入ると、メイク道具を広げている彼女と目が合った。

「今日のコンセプトは聞いてますけど、佐久間さんなにか希望ありますか？」

「んーん、いつもどおりAちゃんにおまかせする」

「わかりました」

肩まで伸びたまっすぐな黒髪に、白い肌によく映える赤リップ。服装はモノトーンで統一されている。性格もサバサバしている彼女は、まるで男に媚びないクールな女性そのもの。

俺たちがデビューしてから付いてくれるようになったAちゃんは、初めは仕事をするうえで必要最低限の会話しかしてくれなかった。

嫌われているのかもと感じていた頃もあったけど、今思えばアイドルとスタッフという関係性が、少しでも揺らがないようにという彼女なりの配慮だったんじゃないかなって。デビューしたての大事な時期だったわけだし。

ただの思い過ごしかもしれないけど、そんな彼女の不器用な優しさに胸うたれちゃったっていうか。結局、彼女の気遣いが裏目に出たことになるんだけどね。

「リップ塗るので少し口開けてください」

「Aちゃんさあ、」

「はい？」

「今日もかわいいね」

「.....またですか」

いつもこうしてため息をつかれて軽くながされちゃうんだけど、Aちゃんの小さな耳が赤くなってるの、俺は見逃さなかったよ。

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