エディプス1 ページ10
月明かり差し込む窓辺。明かりをつけずに研究室の本棚にもたれ掛かり、腕時計を確認する。
約束の時間が迫っている。バート・グランディウスは高鳴る鼓動を落ち着かせるよう、静かに深呼吸を繰り返した。
「私は忙しいと、いつも言っているのだが」
冷徹な声と共に研究室の扉が開かれた。現れたのはモーリス・グランディウス。無表情で杖をつきながら部屋に入る。
「お手間を取らせてしまい申し訳ありません、父上」
バートは恭しく父、モーリスを部屋に案内し室内の椅子に腰掛けさせた。モーリスは相変わらずどうでも良さそうに抑揚のない声で尋ねた。
「用件は」
その態度に内心苛立つバートはぎりりと奥歯を噛み締める。上品な口調を崩さぬよう無理やり微笑んで見せた。
どうせこの愛想笑いも今日で最後なのだ。
「すぐに済ませますよ」
そう思うと心の底から笑いが込み上げて来そうになる。
俺はもう親父の操り人形ではなくなる。自由と実権を手にし、世界に必要とされるのはこの俺なのだ。今日この日から。
感情のままにバートは床に手を振り下ろした。
「貴方の時代は終わりです父上」
暗い部屋でモーリスの座る椅子を中心に浮かび上がったのは禍々しい光を放つ錬成陣。
今ここで長年の目の上の
「老衰ということでよろしいですね?」
今まで感情らしい物をちらつかせもしなかった鉄仮面の最期だ。どんな苦しみ方を見せてくれるのかと心待ちにしながらモーリスを見下ろす。
裏切り者と喚き立てるか? 助けてくれと命乞いをするか?
どちらにしろ答えはノーだ。俺をこれまでコケにしてきた疫病神なんてここで悶え苦しみながら身内に殺されるのがお似合いなのだから。
ところが。モーリスは恨み言どころか言葉すら発さない。
黙したまま、いつもの冷たい表情でバートを見つめていた。そして錬成光が鎮まると同時に、糸の切れた人形のように地に伏せ息を引き取った。
バートの手元に収束した爪の先程の紅い欠片が、モーリスの死を示していた。
いつの間にか口元が綻んでいたその死に顔に、バートの溜飲は下がらない。
「なんだよ、それ」
笑って逝ったその顔が、まるでバートの事など見ていないかのように嘲笑っているようで。無性に腹が立った。
「っとにッ……! 最期の最後までクソムカつくクソ親父がッ!!」
空虚な憤りが、従来の主を失った屋敷に木霊した。
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ウィワクシア(プロフ) - もぶおじさん» コメントありがとうございます!!嬉しすぎてころげまわってました。精進しますので今後ともよろしくお願いいたします! (2019年3月20日 16時) (レス) id: 4474fbdae4 (このIDを非表示/違反報告)
もぶおじ(プロフ) - 続編おめでとうございます!これからの展開に心を躍らせて待っております。体に気をつけて更新頑張ってください! (2019年3月20日 1時) (レス) id: d5af19b99a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ウィワクシア・D | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/793fed8a0b1/
作成日時:2019年3月19日 14時