錬金術の咎5 ページ25
マスタングは絶句している。それが普通の反応だろう。それでも、マスタングの悲しい顔を見るとダリアは胸を締め付けられる思いだった。
そんな哀しい目で見ないで欲しい。自分は心配してもらえる程 真っ当な人間ではない。他の動物の命を代価に、そばで焼け死んでいく実験動物たちを顧みず、自分の命を選び生き長らえたのだから。
｢でも、悲観しても仕方ないんですよね。
さ、食べましょう。折角の料理が冷めてしまいます｣
ダリアは気丈に振舞って匙をとる。微笑みを顔に貼り付けてスープを飲む。
｢辛ければ残してもいいんだぞ。無理はするな｣
優しく諭す様に言うマスタング。彼にはダリアが無理に笑っている事も今強烈な胸焼けに見舞われて辛がっている事もお見通しのようだ。
無理をして気丈に振舞おうとする彼女を見るのが辛かった。
彼女がどんな心境で自らを合成獣に錬成したのか、それは私にはわからない。憐れむことがお門違いなのは理解している。これがダリアの選んだ答えなのだから。
｢すみません。そしたら、パンだけマスタングさんに食べてもらってもいいですか? 固形物が手強くて｣
匙を置いて少しおどけたように言うダリア。マスタングは了解してパンを手に取る。
｢それは構わんが、その事もやはり合成獣化と関係があるのか?｣
｢えぇ、何の生物に由来するかは分かりませんが、一部の消化器官が退化しているようです｣
ダリアは物憂げに腹部をさする。極端に体重が減っていたのはそのせいかも知れない。
｢他に体に変わったところは無いか?｣
マスタングが聞くとダリアは自分の手足に目をやった後｢ありません｣と答えた。そして少しお茶を口にしてからこう付け加えた。
｢今のところはね｣
含みのある言い方が少し気になったマスタングだが、デリケートな問題でもあるのでそれ以上突っ込んで聞くことはなかった。
結局、ダリアが一杯のポタージュを飲み終わる前に、マスタングはポタージュもパンも食べ終わってしまった。
｢ごちそうさまでした
ダリア、無理はするなよ｣
マスタングは席を立って食器を台所に持っていく。
｢あー、すみません。洗い物はあとで纏めてやっておきますから、そのまま置いておいてください｣
どうせ洗うなら纏めた方が効率的だ。ダリアがマスタングに伝えると、マスタングは｢助かるよ｣と言って居間の椅子に掛かっている上着を取る。
｢さて、少し出掛けてくる｣
｢どちらへ?｣
上着を羽織ってマスタングはうっすら微笑んだ。
｢秘密だよ｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 104人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
とむら(プロフ) - すごく面白いです！あの、設定でのイメ画ってウィワクシアさんが描いた絵ですか？なにかのアプリで描いた？ものならそのアプリって教えていただけないでしょうか？ (2017年12月31日 22時) (
レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
ウィワクシア(プロフ) - 松本鈴香さん» ご感想ありがとうございます。初めてコメントを付けて頂けてとても嬉しいです。今後の励みとさせて頂きます。 (2017年6月11日 8時) (レス) id: 953d5472a5 (このIDを非表示/違反報告)
松本鈴香(プロフ) - ロイさん好きなので良かったです(*>ω<*) (2017年6月1日 0時) (レス) id: 2ed850d9b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ウィワクシア･D | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/793fed8a0b1/
作成日時：2017年3月6日 22時
