錬金術の咎1 ページ21
仄暗い川沿いの道を早足で進むマスタング。
九時になってもダリアは帰ってこなかった。虫の知らせ、とでもいうのか。マスタングは、かつてダリアが突如としていなくなってしまった、あの頃の虚無感を呼び覚ますような不安を感じていた。
マスタングは思い当たる場所を手当り次第回ってきた。彼女が勤めていた店にもイーストシティ近郊のスラム街にも行ったが、手がかりすら見つけられなかった。
「何処へ行ったんだ……ダリア」
かれこれ二時間も探しているのに、ダリアはどこにもいない。
もしかすると自宅に戻っているかもしれない。そんな淡い期待を抱き、マスタングは一度帰宅する事にして踵を返した。
河川の流れる音に混じって、マスタングは微かに何者かの呻き声が聴こえた。
そして声の主はマスタングの背後に、影のように静かに風のように素早く現れた。
それが放つ殺気にも似た得体の知れない威圧感にマスタングは一瞬息を呑む。錬成陣の綴られた手袋をを構え臨戦態勢で振り返った。
「マスタング……さ、ん……」
マスタングの背後に立っていた者。それは、紛れもないマスタングが今探し回っていた人物、ダリアだった。
「……なっ!?」
フラフラと苦しみながら立ち続けるダリアの服は大部分は血で赤黒く染まっていて、所々生地が焦げている。
「帰りが、遅く……なって……すみません」
「ダリア……!! どうしたんだ一体!?」
警戒していた事など忘れてマスタングはダリアの方へ駆け寄った。ダリアの服の血の跡は形からしてダリア本人の物のように見える。しかしそれならダリアが生きているのもおかしい。それ程の量だ。
「怪我をしているのか…?」
「……いえ、今はしてません」
ダリアは顔面蒼白で今にも倒れそうだった。マスタングがダリアの肩あたりを両側から掴んで支えると、焦げた服の繊維が脆く乾いた音を立てて崩れる。
驚いた事に、ダリアの言う通りダリアの体に目立った外傷はない。それは一安心だが、服がここまで焦げていて無事である事に疑問が浮かぶ。それに『今は怪我をしていない』という言葉の意味とは。
「……ごめんなさい。今、徹夜明けのお昼の倍ぐらい眠いんです……」
ダリアは消え入りそうな声でそう言うと、脱力して静かに寝息を立て始めた。
仕方なくマスタングはダリアを背負って家に連れて帰る事にする。それなりの身長ではあるしある程度の重さを覚悟していたが、その予想を裏切って何故か不自然な程に軽い。
「一体君に何があったんだ……ダリア」
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とむら(プロフ) - すごく面白いです!あの、設定でのイメ画ってウィワクシアさんが描いた絵ですか?なにかのアプリで描いた?ものならそのアプリって教えていただけないでしょうか? (2017年12月31日 22時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
ウィワクシア(プロフ) - 松本鈴香さん» ご感想ありがとうございます。初めてコメントを付けて頂けてとても嬉しいです。今後の励みとさせて頂きます。 (2017年6月11日 8時) (レス) id: 953d5472a5 (このIDを非表示/違反報告)
松本鈴香(プロフ) - ロイさん好きなので良かったです(*>ω<*) (2017年6月1日 0時) (レス) id: 2ed850d9b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ウィワクシア・D | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/793fed8a0b1/
作成日時:2017年3月6日 22時