流れる星を見逃さないで

21 さよならの時 ページ21

〆．



「なんで」


「いや、なんでと言われても」


「……………」


流星さんは不機嫌。


理由は、私の右手が完治したから。


右手が使えなかった私のためにと、何かとお世話をしてくれていた流星さん(といっても基本食事だけ)。


私が頼らなくなるのが嫌だと駄々をこねている。


「困った人……」


「もう嫌や。今日一緒に寝よ」


「いやいや、流星さん毎日私の布団勝手に入ってくるでしょ」


私たちのこの言い合いはもはや日常と化してきた。


私が誘拐されてから二ヶ月、こんなにも人生って楽しかったっけ、というような幸せな時間を過ごしてきた。


私の外出は近場なら許可が出され、ここ一週間は流星さんと散歩するのが日課になっている。


「ほらもう、散歩しに行こうよ。いい天気だよ」


「んー」


私の右手を睨みつつ、頷く流星さん。


なんだか可愛い。


「あ、出かけるついでに醤油買うてきて〜」


「了解でーす」


自由に外を歩き回れるのが嬉しくて、はやくはやくと流星さんの手を引っ張った。




「あ、花が咲いてる。なんて花だろ、かわいいね」


「Aのが可愛ええよ」


「……そういうの、いいから」


「ほんまやもん」


何怒ってんの、って不思議そうな顔して聞いてくる。


照れてるの。ばか。


繋がれた手は次第に熱を帯びる。


「流星さんは、まだ私のこと好きなの？」


「愚問。当たり前やん」


はあ、聞かなきゃ良かった。


きっと顔真っ赤だよ。私。




「……あ、流星？流星だよねー！久しぶり！」


ぱちぱち、瞬きを二、三する。


目の前に突然現れた謎の美女。


ルックスは女の私でも見惚れるくらい完璧。


………流星さんの、知り合いかな。


「ああ、久しぶり」


流星さんも笑顔になって、二人の間で会話が始まる。


当然その中に交じることが出来ない私は、「ちょっと飲み物買ってくる」とその場を離れた。


自分から離したはずの手は、すごく寂しそうに見えた。


………楽しそう。ただの友達…ってわけじゃなさそうだし………。


これは女の勘だけど、美女の方は流星さんに気があると思う。さっきからやけにボディタッチが多いから。


流星さんだって、もしかしたら、いつまでも告白の返事をしない私なんかより、彼女の方が……。


二人の姿が見えるか見えないかまで離れた時、見知らぬ男性が私の名を呼んだ。


「……君、青野、Aちゃん？」


「え………？」



〆．

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