流れる星を見逃さないで

02 ページ2

〆．



私は、両親の待望の子供だった。


子供が欲しかったのになかなか子宝に恵まれず、不妊治療をし続けて、やっとできたのが私。


親が私を愛するのも、当然のことだった。


30代半ばで私を生んだ母は、もう50を過ぎている。


父も同じで、中肉中背、容貌がよく似た夫婦だと近所の人も言っていた。


私はどちらかといえばお母さん似らしく、お母さんは嬉しそうに私の頭を撫でていた。




そんな両親からすれば、私の価値は818億には留まらないだろう。


だけど、どうして？


「あなたは、私に818億の価値があると思ってるの？」


さっき私が思わず平手打ちしてしまった頬を、軽くさすっている彼に尋ねた。


「あるやろうな」


懲りずに顔を近づけてくる彼を睨みつつ、後ずさる。


「うちは、普通の家庭だよ。818億なんて払えるわけがない。お金が目的なら、私以外を拐うか、もう少し現実的な額を提案すべきだと思う」


「えー。困ったなー」


全然困ってないような声色で、彼は続けた。


「818っていう数字にこだわってんねん。でも818万やとすぐ用意しそうやん？君の親はそれくらい君を愛してる。やから、億。それと、君以外を誘拐するっていう選択肢はないから」


「………なんで？」


「俺は、君のことを誘拐したいからこの計画を企てた。やから、君やないとあかんねん」


どうして私なの。


聞こうと思い口を開く。


しかし彼は私の唇に人差し指を当て、喋ることを制した。


そしてもう片方の手で、私の靴箱に書かれた名前をなぞった。


「青野Aちゃん」


彼の妖艶な瞳が、私を捉えて離さない。


「君を誘拐して、自由にしたるわ」




「自由、って」


「言葉の通りやけど」


「あなたは知ってるの？」


「知ってるから誘拐しに来ました」


彼の瞳は、真剣だ。


「………本当に、私を自由にしてくれるの？」


「約束や」


スッと差し出された小指。


私の人差し指くらいの太さで、男の人なんだなぁと思う。


「………約束」


約束は、破るためにあるのだと誰かが言っていたっけ。


それでも、構わない。


いつかこの人たちに見捨てられたとしても、私はもうあの両親のもとにいたくはない。


恐る恐る小指を絡める。


「ゆーびきーりげーんまーん」


子供のように無邪気な笑顔で歌う。


「嘘ついたら針千本のーます！指切った！」


「んっ……」


まただ。


人生で初めてと二回目のキスを、いとも簡単に奪われてしまった。



〆．

03→←01 流れる星

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す