. 262話 蛙吹梅雨 ページ36
ここ数週間、何かに耐えるように項垂れる姿が、眉間に皺を寄せて視線を足元に彷徨わせる姿が、嫌に頭に焼き付いた。
──氷のような子だと思っていた。入学当初の轟ちゃんとはまた違う雰囲気の子。
友達ごっこなんて心底下らない。そう言いながら、まるで自分の身を守るかのように彼女は他と線を引く。
人との関わりに怯えているように見えた。
同じ時間を過ごし、共に窮地を乗り越えてきた仲間の1人。思いを交わすうちに、彼女の氷壁が徐々に溶けていくのを感じた。
彼女は感情をそのまま出すような子じゃない。だからこそ…というのか。彼女の瞳は雄弁で。
ふとした時の、私達を見る優しい眼差しが好きだ。穏やかで、静かな瞳の色。
先を見据える意志の籠った強い光も。
たった数ヶ月でもちゃんと見てきたから。
『─Aちゃん、そろそろ寝ましょう?明日に備えないと』
声をかければスマホから目を離し、こちらに顔を向ける。思わず目を見開いてしまう。感情が抜け落ちたような顔をしていたから。
ロビーにはもう誰も残ってない。当然だ。明日は仮免試験なんだから皆もう寝たもの。Aちゃんだけ残っている。そこに自分がいたのはただの偶然だった。
彼女がスマホで何を見ていたかは、嫌でも想像が着いてしまった。未だ騒がれる神野事件、英雄の消失、暴発した鬼の少女の個性。
酷いことを平気で叫ぶ人がいたものだ。彼女は拉致され害された被害者であるというのに、過去の大災害とも言える事件を引き合いに出し彼女を責め立てる罵詈雑言の数々。決して少ないとは言えないだろう。
そんな悪意に触れて欲しくなかった。それよりも、私たちに目を向けて欲しかった。今更個性や境遇なんかで態度を変えたりなんかしない。
私たちは、ちゃんと貴方を見てきた。
「何で、何も言わないの」
掠れた声に、どうしようもなく泣きたくなった。1番泣きたいのは、苦しいのはこの子だろうにと、やるせない思いが溢れてしまう。
『…問い詰めたりなんかしないわ。Aちゃんは何も悪くないもの』
｢…何も、知らないくせに｣
『そうかもしれない。でも貴方が優しい子だって、ちゃんとわかってる』
ずっと見てきた。自分よりずっと大きな敵にも怯まず立ち向かう姿、誰かの前に立って傷付けまいとする背中。
けれど、知ってるの。
彼女は決して、強い子ではないってこと。
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マヨケリ(プロフ) - コメント失礼します🙇ほんとに面白くて一気に読んでしまいました！！ (4月22日 20時) (
レス) id: 25632ac130 (このIDを非表示/違反報告)
ムーン - いつも楽しく読ませていただいています！個人的に夢主がめちゃくちゃ好きです！続き楽しみに待ってます！ (3月29日 19時) (レス) id: 4501a4fd46 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - あめみやさん» 読んでくださってありがとうございます。あめみや様のような応援コメントにいつも励まされています☺️ (11月13日 8時) (レス) id: 4d64a1450f (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 久しぶりに見たら神野の悪夢編終わってて目が飛び出しました！これからもご自身のペースで更新頑張ってください！！ (11月11日 19時) (レス) id: dd94fd2279 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 司さん» ありがとうございます^^自分でもこの先どうなるのか分からなくなってきましたが完結までは必ず持っていきます! (9月16日 13時) (レス) id: 4d64a1450f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：レイ | 作成日時：2023年7月25日 18時
