. 255話 もどかしさ ページ29
ノートをパラパラと捲り、神崎さんの個性や闘い方をまとめたページに目線をやる。
彼女の存在を最初に意識したのは入学式の日だった。教室で静かに座っていた生徒は彼女の他にも何人かいたはずだ。それでも彼女に目をひかれたのは、決して容姿だけが理由なわけではなかった。
彼女を取り巻く空気感と、僕らとは違うものを見ているような眼差しがそうさせた。この人はきっと、“ヒーローになる”以上の確固たる指針を持ってこの場にいるんだろうと、それが最初の印象だった。
しばらく過去に思いを馳せていると、ふと思い立ったように神崎さんが｢見せて｣と言い放った。
『…えっ!?で、でも…そんな大層なものじゃ』
驚きを隠せず上擦った声が出る。
人にノートを見せる行為を億劫に感じていた。一括りに行ってしまえば、あまりいい思い出がない。
もちろん神崎さんがこのノートを蔑ろにする人ではないのは分かってる。けれど気分のいいものではないだろう。
勝手に観察し、勝手に書き留めていた手前、彼女の要求を受け入れない訳には行かない。
その間の沈黙を了承と受け取ったらしい彼女は一気に身を寄せノートをのぞきこんだ。
近くなり過ぎた距離に思わず肩をすくめる。そんなこともつゆ知らず神崎さんは真剣にメモを見るばかり。
ノートを手に持っているのは自分だから動く訳にもいかない。
数十秒だったかもしれないし、あるいは数分そのままだったようにも感じられる。遠くなりかけていた意識は彼女の小さく息を吸う音で覚醒した。
『神崎さん……?』
｢……本当に、よく見てるね｣
息が止まった。泣いているように見えた。もちろん、彼女の目は潤んでいるわけでもないけれど。
きっと今しかないと、うちに秘めていた思いを言葉にしようと決心した。彼女の眼を見て話さねばならない。
『見てるよ、ちゃんと見てる。僕だけじゃない…八百万さんや轟くん、ほかの皆も…
だから神崎さん、君はもっと―――』
その先の言葉が続くことは無かった。
彼女の瞳は僕を映してなどいなかった。会話はしてるのに、言葉が届いていない事が漠然とわかってしまった。目を背けたいその事実に呆然と立ちすくんでしまう。
“大事なのは何をした、何をしてる人間に言われるか”
轟くんの言葉が過ぎる。今、この場にいたのが僕じゃない誰かだったら、彼女の瞳は光を取り戻す事が出来たのだろうか。
今はただ、やるせない無力感に1人苛まれていた。
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マヨケリ(プロフ) - コメント失礼します🙇ほんとに面白くて一気に読んでしまいました！！ (4月22日 20時) (
レス) id: 25632ac130 (このIDを非表示/違反報告)
ムーン - いつも楽しく読ませていただいています！個人的に夢主がめちゃくちゃ好きです！続き楽しみに待ってます！ (3月29日 19時) (レス) id: 4501a4fd46 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - あめみやさん» 読んでくださってありがとうございます。あめみや様のような応援コメントにいつも励まされています☺️ (11月13日 8時) (レス) id: 4d64a1450f (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 久しぶりに見たら神野の悪夢編終わってて目が飛び出しました！これからもご自身のペースで更新頑張ってください！！ (11月11日 19時) (レス) id: dd94fd2279 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 司さん» ありがとうございます^^自分でもこの先どうなるのか分からなくなってきましたが完結までは必ず持っていきます! (9月16日 13時) (レス) id: 4d64a1450f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：レイ | 作成日時：2023年7月25日 18時
