小さな石ころは戦場の中で恋をした【時透無一郎】

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『うーん…他に行く場所なんてあったかなぁ…』




乱れた布団を整えながら頭をひねる

もしかして、私に嫌気が差してどこか行ってしまったんじゃ…


謝らなければ

ただでさえ冷たくされているというのにこうなってしまったら仲良くなるどころか不仲になってしまう

あまり突っ込まないほうがいいかもしれないが、せめて一言、謝りたい





『…一応、外も探してみよう。』




玄関へと続く廊下を歩く
自然と足取りが早くなっていたようで
お館様のご息女、かなた様に声をかけられた




「…?
A様?そんなに急いでどこへ行かれるのですか…?」


『えっと…少し外へ出ようかと』


「そうでございましたか、それなら傘をお持ちになってください。玄関に置いてあるのでそれを」


『ありがとうございます…!後で必ず返しますね』


「はい。お気をつけて」






軽く礼をしてまた玄関へと歩き出す
靴を履いて傘を持ち、扉を開けた



鉛の空、嫌というほど振ってくる雨は昨日から続いている
夏はどうも雨の日が多い

梅雨というものだろうか
じめじめしていてあまり好きじゃない


明けない夜はないように、止まない雨はない
必ず天気は変わるのだ



そう思いながら一人傘の下、時透君を探した

産屋敷邸はとても広いので探すところは沢山ある
もうすぐ庭を一周するくらいになったとき、何かを打ち付ける音が聞こえてきた



鬱憤を晴らすような、苦しみをぶつけるような
殺気を放つ鍛錬の音

呼吸をしても入ってくれない酸素のせいで切れる息の音


私も似たような音を痛いほど聞いた
かつて自分から発せられていた物のようだった


まだ姿は見えていないけど、きっとこの音の持ち主は──




『時透君…!』




やっぱり…!どこにもいないと思ったらこんな所で…
傷もまだ治ってないし、安静にしてないと逆戻りだよ…!

雨も降ってるのに上半身が…
あれじゃ風邪を引いちゃうよ




『時透君!今は安静にしないと…!休む時はしっかり休まなきゃ!』


「…っ……はぁ………………」


『……時透君………』




呼び掛けても手を止めない

まるで私の声が雨で掻き消されているようだった
振り向きもせず、ただ一心不乱に木刀を振る


もう、こうなってしまえば私には止められない
知っているんだ。私も

失った直後は頭の中が空っぽになり、代わりに怒りで埋め尽くされる。そして今まで知らなかった自分が見える
その後は自暴自棄になって頭がぼーっとして目の前にあることしかわからない

またしばらく立つと再び怒りが湧いてきて、復讐をするために自分を忘れて鍛え上げる

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