さんじゅうに ページ36
その日の夜の弥彦くんは妙に優しかった。
いつもは素っ気なく、沈黙が落ちる前に私を少しおちょくって沈黙に部屋が包まれればさっさと寝る。その繰り返しばかりしていたのに、今日は違った。
よく気を使ってくれるし、私が暇そうにすれば何気ない話題を降ってくれる。
当然私は困惑した。
弥彦くんは何処かで強く頭をぶつけてしまったのか、と心配になった程だ。
違和感に首をひねりつつも、私は敷いたばかりの布団に身を包ませた。だが、いつもなら弥彦くんも仕切りの向こうに敷いた布団に入る筈が何故か弥彦くんは布団に入ろうとしない。
弥彦くんは文机の前に座ったままだ。
「…弥彦くん、寝ないの?」
私の声に振り向いた弥彦くんは決まり悪そうに眉を下げた。そんな表情は初対面のときからまったく始めて見せたものなので、私は大袈裟に驚いて仕切りに足をぶつけてしまった。
衝撃で空気が揺れて文机に置かれた蝋燭がゆらりと揺れて弥彦くんの端整な顔を照らした。
少し位置のずれた仕切りを一瞥して、弥彦くんは申し訳なさそうに頬をかいた。
「うん。今日、実習入ってるから」
そういえば、弥彦くんはあの白い寝間着に着替えておらず、萌黄の忍装束に身を包んだままだった。
そして、所在なさげに目線をあっちこっちに飛ばして、言葉を詰まらせる弥彦くんはかなり新鮮だった。
もしかしなくても私を一人にすることを心配しているんだろうか。
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから一人で部屋で寝るくらい出来るよ」
弥彦くんは何か言いたそうに眉を顰めたけれどそれは一瞬で、私にその表情の意図は読み取れなかった。
「そう言うことじゃないんだけど…まあ、早く厠に行って寝ろよ。何があっても外に出んなよ」
何があっても、のところをやけに強調して、また弥彦くんは不機嫌そうに顔を顰めた。
最早しかめ面は弥彦くんのデフォルメになっている。相手が私でも、私じゃない誰かでもこんな表情をするんだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、弥彦くんの忠告にうんうんと相づちを打った。
カタカタと鳴る建てつけの悪い引き戸を引いて、弥彦くんは実習に行ってしまった。最後にもうひと押し外に出るなよと念を押して。
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最近暑いですね…(「・ω・)「皆さん熱中症に気をつけましょーね…。
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セナ(プロフ) - Ry osdさん» ありがとうございます!とても嬉しいです!励みになります!今はスマホの方で書いているのでIDが違います。ややこしくてすみません。 (2020年3月29日 3時) (レス) id: 9a1a35c746 (このIDを非表示/違反報告)
Ry osd(プロフ) - ゆっくりでいいので楽しみにしてます。 (2020年3月29日 1時) (レス) id: d9cf167b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:利世 x他1人 | 作成日時:2020年2月22日 14時