じゅうろく ページ19
「天女さまは居られますか」
そう言って部屋に入ってきたのは青白い顔をした六年生だった。
周りの視線をかわしながら朝食を終え、ちょうど部屋に戻って来た頃。一息ついていると、控えめなノックの後、こちらの返事を待たずに扉が開けられた。扉の向こうに居たのは朝の二人ではなく、黒髪の綺麗な顔色の悪い男。六年い組の立花仙蔵(弥彦から聞いた)だった。
タイミングの悪いことに弥彦は図書室に行っていてここには居ない。きっとこの男は弥彦が居ない今を狙って来たのだろう。邪魔をする者が居ない今を。自分に対する隠しもしない殺気と敵意は最早尊敬に値する。
「なんの御用ですか」
とあくまで平静を装って返事をする。
男は一瞬目を細め、次には胡散臭いまでの笑顔を浮かべた。
「学園長がお呼びです。ご案内致しますので私に着いてきてください」
男の白々しい態度が気になったが気にするべきは話の内容だ。まだここに来てから三日も経っていないはずだが。琴子は自分でも意識せず何かしらやらかしてしまっただろうかと顔を青くした。
早くしろ、と無言で圧力をかけてくる男を尻目に琴子は手早く支度をした。弥彦に向けて置き手紙も書く。この二日で慣れない筆の扱いもかなり上手になった気がする。
これからのことを考えるとかなり気が重たいが仕方がない。
自分を鼓舞して海松色を追いかけた。
*
どういうことだろうか。
図書室から帰ってきてみれば、部屋にいるはずの天女さまが居なかった。用を足しにでも行ったのかと思ったが違うらしい。使い古した文机の上には見覚えのない紙が置かれていた。
上に置かれた文鎮をどけて、紙を手に取って顔に近づける。
『学園長がなんかお呼びらしいので行ってきます』
自分よりも年上な癖にあの人は説明が下手くそだ。文体が砕けていて少しだらしない。言葉遣いも文体同様に砕けたものだった。あの人は国語が苦手なんだろうか。頭は悪くはなかったが。(算術は素晴らしかった)昨日の朝、自分で着物の着付けが出来ないと言われたときは流石にどこの貴族の娘だ、と突っ込んだ覚えがある。
世間離れしたお嬢様みたいな奴は一回も来なかっただけに大分戸惑った。あの人はどうにもやりにくい。やりきれない奇妙な感じがする。
あんな調子で学園長と話だなんて大丈夫なんだろうか。
少し不安が残るけどあの人ならまあ、上手いことやってみせるだろう。
そう区切りをつけて弥彦は借りてきたばかりの本を文机に置いた。
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セナ(プロフ) - Ry osdさん» ありがとうございます!とても嬉しいです!励みになります!今はスマホの方で書いているのでIDが違います。ややこしくてすみません。 (2020年3月29日 3時) (レス) id: 9a1a35c746 (このIDを非表示/違反報告)
Ry osd(プロフ) - ゆっくりでいいので楽しみにしてます。 (2020年3月29日 1時) (レス) id: d9cf167b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:利世 x他1人 | 作成日時:2020年2月22日 14時