じゅうよん ページ17
先に口を開いたのは弥彦だった。
「おはようございます。昨日も実習だったんですね」
弥彦は挨拶はしたものの二人とは頑なに目を合わせようとしない。琴子はそれにどうしても違和感を覚えた。自分とはよく目を合わせてくれたのに、と不思議に思った。
「ああ、おはよう」
「モソ」
真ん丸目玉も同様に弥彦と目を合わさずに挨拶を返した。傷男についてはよく聞き取れなかった。
そうやって三人の顔を眺めていた琴子だが、一瞬真ん丸目玉と目が合ってしまった。間髪いれずに目を反らすことで琴子はその場をやり過ごした。ほんの一瞬のことだったが、琴子は生きた心地がしなかった。
一瞬の間に見えた真ん丸目玉の視線はとても鋭かった。下手すれば視線だけで人を殺せそうな勢いだった。
*
じゃあ、と言って足早に去っていった男たち。男たちが去っていったあとも、弥彦の顔は険しいままだった。
それを見た琴子は自分でも意識せずに一歩後ずさった。だって、親の仇を見るときだってあんなおぞましい顔はしないだろう。弥彦の顔はそれくらい憎々しげに歪められていた。
しかし何より気になったのはそんな顔をしているにも関わらず、弥彦が今にも泣きそうな目をしていたことだ。あれだけ憎悪を剥き出しにしていたのに、真っ黒い目はひたすら悲しそうだった。
自分がここに来る前に彼らの間で、何かしらのいざこざや関係にヒビを入れるような出来事があったのかもしれない。それは琴子の純粋な直感だった。だが不思議とそれが間違いだとは思わなかった。純粋な直感に勝るものはない。
琴子には彼らに何があったかは分からない。無遠慮にそれに首を突っ込むつもりもなかった。
だけど、弥彦にあんな顔はして欲しくなかった。会ったばかりだったけれど、笑って、遊んで、豊かに人生を過ごして貰いたかった。遊びたい盛り、育ち盛りの楽しい頃を暗い思い出で塗りつぶして欲しくなかった。琴子の脳裏には幼い弟の姿が浮かんでいた。
けど、琴子はそれを伝える術も彼との信頼関係も持ち合わせていなかった。仕方がないことだった。
気持ちを切り替えられないままで琴子は、顔洗おうか、と弥彦に話しかけた。
こんなことしかできないけど、私はそれなりに君を大事にしたいと思っているよ、と素直に言えばよかったのに、と心の中だけで後悔した。
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セナ(プロフ) - Ry osdさん» ありがとうございます!とても嬉しいです!励みになります!今はスマホの方で書いているのでIDが違います。ややこしくてすみません。 (2020年3月29日 3時) (
レス) id: 9a1a35c746 (このIDを非表示/違反報告)
Ry osd(プロフ) - ゆっくりでいいので楽しみにしてます。 (2020年3月29日 1時) (レス) id: d9cf167b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：利世 x他1人 | 作成日時：2020年2月22日 14時
